或る少年についての考察 ページ22
森鴎外side
堀辰雄という少年はどこかちぐはぐである。
彼と出会ったのは一年前のこと。私が気まぐれに貧民街の片隅を覗いていると、幼い美少女(この時は少女に見えた)がガラの悪い連中に嬲られているのが目に入った。
自慢する訳では無いが、私の守備範囲は12歳以下の少女であるから助けようと思い立ったのは自然なことだろう。
結果として、彼は男だった訳だが。
私が彼の怪我の治療をした後、彼は自分の怪我も厭わずに、母の病気を治してほしいと私に懇願してきた。対価を要求すると、彼は言ったのだ。
己を担保にすると。
彼は異能力を持っている自分の利用価値を充分に理解した上で私に取引を持ちかけてきた。
貧民街の育ちの彼が何故異能力の価値を知っているのか。そもそも異能力をこの年で使いこなせているのか。
様々な疑問が私の脳裏に浮かび上がっては消えた。
疑問を持ったまま、私は辰雄くんの願いを叶える事にした。
…決して懇願する姿が可愛かったなどということは無い。
彼の異能力について聞くと、風を操るものだという答えが返ってきた。異能力というのは、自分が予想もしていないことが起こりうる不確定要素、所謂ブラックボックスだ。
しっかり理解をしていないと、自分自身を傷つける事態になりうることもある。それに、彼の可能性を私は見てたかったのかもしれない。
案の定彼の異能は風を操るなんてものでは収まらず、より大きな『大気』を操る異能力だった。
誰に習ったのか、彼は体術のセンスも素晴らしいものだった。
優秀な頭脳、戦闘におけるセンス、そして極めつけの強大な異能力。
彼は完璧であるかのように思えた。
だが、それが間違っていたと私が気づいたのは彼が12歳、私が30歳になり辰雄くんの母親が亡くなった日だった。
辰雄くんの母親の容態が悪くなり、最期の時を迎えた彼の母親は言葉を彼に遺した。彼に声をかけようと私が扉を開けようとした時、こちらまで胸が痛くなる様な悲痛な叫びが聞こえてきた。
『母さん…!!母さん…、!』
私はどこか彼は自分のことに関しては感情が希薄で、母親が死んだ時も泣かずに淡々と見送るだけだろうと思っていた。
そう思っていた彼が、声を上げて泣いている。
嗚呼、そうだ。彼は12歳の只の少年だった。
肉親が死んで、悲しくないわけがない。
私の道具である彼は、不安定な感情を持ちながら大人であろうとするちぐはぐな少年だった。
287人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「文豪ストレイドッグス」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
夜幸(プロフ) - 霊夢どうふさん» 応援ありがとうございます!不定期ですが、そろそろ芥川さん出るので楽しみにしていてください!! (2019年1月28日 17時) (レス) id: 37f394c4d7 (このIDを非表示/違反報告)
霊夢どうふ - やつがれメイン…神か、神なのか好きですぅぅぅぅこれからも更新、頑張って下さい! (2019年1月27日 11時) (レス) id: 8add41b466 (このIDを非表示/違反報告)
猫夜桜((シラキ(プロフ) - 1つのベッドに2人で寝るだと………?いい事じゃないか(鼻血)←あとホラー映画見てた時は中也くんは横にいて腕に抱きついてきたとか…w(ニヤニヤ) (2019年1月20日 4時) (レス) id: 4588ab3ba5 (このIDを非表示/違反報告)
夜幸(プロフ) - みこさん» 私の小説が原作を知るきっかけとなってとても嬉しいです。原作はこれ以上面白いのでぜひとも読んでみてください!芥川さんは頑張ってこの話中に出したいです…もう少しお待ち下さい! (2019年1月16日 23時) (レス) id: 37f394c4d7 (このIDを非表示/違反報告)
みこ - 文ストの知識皆無でしたが、この作品を読んで興味が湧きました。そして芥川さんがカッコいいですなんやこれ (2019年1月15日 0時) (レス) id: 3d83174dd8 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:夜幸 | 作成日時:2018年12月28日 16時