夜に恋う３ (ページ10)

今日:40 hit、昨日:0 hit、合計:78,758 hit

１０９ページ10

「！」

それに少し動揺したような表情を浮かべた君月に微笑むと、剣を収めた。

「ガキども最後の命令だ！！おまえら絶対生きてここから逃げきれ！！」

グレンの言葉はきっと届いただろう。
遠去かる足音を聞きながら、そっと瞳を伏せる。

『…阿朱羅丸』

まさか、優の鬼になっていたとは。これも兄様の思惑通りなのか、それとも他の誰かの思惑通りなのか。
クルルはアシェラを助けるために動いている。なら、彼女に伝えるべきなのだろうか。

「A様？どうなさいましたか？」

『いや…ちょっとね…』

目蓋を上げてホーンを見てからグレンを見下ろす。

『さて。これは君の計画通りなのかな？』

「…さてね」

『早めに吐いた方がいいと思うよ。京都の吸血鬼が来たら、君は拷問行きだからね』

「…」

『私としても、君が痛めつけられるところはあまり見たくない。あの子たちの子供だから』

思い出すのは、彼の親。彼らとは一時期親交があった。特に母親の方とは仲が良かっただろう。彼女によく似たグレンが痛め付けられるのは、あまり好ましくない。

「A様、彼ことを知ってるんですね」

『グレンがまだ幼い時に会っていたんだよ』

「へー」

クローリーは少し興味があるのか、私を探るように聞いてくるのにそう返した。

『まさか、こんな形で再会するとは思ってなかったけれどね。…ねぇ、グレン。栄はどうしてる？』

「…親父は…」

ぐ、と眉根を寄せて、怒りや悲しみ、悔しさの色を宿したグレンに、ああ…と察する。

『…そうか…栄ももう…いないのか…』

何の感情もなく呟いた。
あれは弱くて優しい男だった。だが、芯のある男でもあった。仲間思いの男だった。家族思いの男だった。
それなりに気に入っていた。
だがもう、いない。
それはウイルスで死んだのか、それとも他の理由なのか。

『人間というのは…儚いな…』

少し会わなかっただけで、永遠に会えなくなってしまう。もう二度と、その声を聞けなくなってしまう。
人間という生き物のは、あっという間に消えていなくなってしまう。
永遠の刻の中で生きる私とは違うのだ。

『…』

だがやがて私は彼を忘れてしまうのだろう。顔も、声も、名前も、思い出すら。
小さく息を吐くと、歩き出す私に投げ掛けられる視線。

『少し出てくるよ。もしクルル達が来たら、すぐ戻ると伝えておいて』

「分かりました」

壊れた壁から外に向かって地面を蹴り付けると、ビルの合間を駆け抜けて行った。