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「こいつら、ワーワーうるさいなぁ」
「始末してよろしいですか?」
優達の声が耳障りなのか、チェスとホーンが顔を歪めながらこちらを伺う。
「…でもこれ、フェリド君案件かもしれないんだよなぁ。A様はどう思います?」
『んー…』
優を見て、グレンを見下ろす。
彼は口パクで深夜に、行け、と言っていた。
外での戦闘音は止まっている。恐らく人質は全員逃げただろう。なら、彼らを逃がした人間はいったいどこにいる?
「指揮は僕が執る!!撤退だ!!」
「あは。そんな簡単に逃がすわけ…」
深夜が声を張り上げて言う。それにチェスが反応して鞭を振るい上げた時。
「おい五士!!助けに来てんだろ!!どこだ!!」
一瞬、空気が震える。
「はぁ?おまえアホか。なにバラしてんだよ」
窓を突き破って人間たちが現れる。彼らも前回の戦争で見かけた子たちだ。
「俺はもう無理だ。力は深夜たちを逃がすために使え」
「嫌ですグレン様!!」
「絶対に逃げませ…!!」
「五士!!やれ!!皆殺しになるぞ!!全員を引き離せ!!」
「やめなさい五士!!」
「くそっ!」
悔しげに、苦しそうに顔を歪めた五士と呼ばれた青年。
無理もない。仲間を見捨てろと言われているのだから。
『さて…どうするかな?』
そう呟くと同時に足元が割れ、マグマが噴き出した。
ちゃんと熱い。だがこれは、幻術だろう。よく出来ている。
しかし、私の脳を侵せる程の幻術など、はっきり言って異常だ。
こんな力、以前の人間にはなかったものだ。
「うわうわ、熱っ!何これ!」
「…幻術でしょう?」
「でも吸血鬼の…それも貴族の脳を侵せるほどの幻術…かつての人間にはあり得ないほどの力だ。…さて、その技術はいったい誰から得てる?」
クローリーも同じことを考えていたのか、そう呟いた。
「幻術だと分かってても熱いですぅ」
「ふむ」
チェスがそう言えば、クローリーは剣を抜いて乱雑にそれを横に振るった。するとその斬撃が幻術を掻き消す。
『逃げられちゃったね』
そこにはもう、優達の姿は無かった。
「まぁ…その指揮官君がいますし、いいんじゃないですか?」
『そうだね』
と、足元のグレンを見下ろすと視線が合った。
『これで晴れて君は捕虜となったわけだ。大人しくしてたら悪いようにはしないから、大人しくね』
「はっ。そりゃどうも」
まったく…昔の可愛らしさはどこへやらだな。
苦笑を浮かべてから、窓の外へと視線を投げた。
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作者名:レイ | 作成日時:2020年8月4日 17時