キミがやさしい人だから 4

23-1: who I cherish ページ37

がらがらっとアルビコッカの木製のドアが開く音がした。それは新しいお客さんが来たということを意味する。時間的に「もしかして」と思ったけれど、俺は他のテーブルの接客をしていたので、目配せで「自分が出る」と主張した樹を止める理由を俺には見つけられなかった。

「お邪魔します」

決して大きな声ではないけれど、聴き慣れたその声は当たり前のように俺の耳に届く。と同時に「やっぱり」と気持ちが少し沈んだ。今はお客様の方を向いていて声の主の姿は見えない。だけどそれが誰かなんてすぐに解かった。一緒に聞こえてくる楽しそうな樹の声に心がざわつくのを顔に出さないよに努める。

今日はスタートから、俺もきょもも、そして多分樹も、いつもより気合が入っていた。それは一つの予約が入っていたからだ。そしてその声はその予約をした人物、つまりはAちゃんのものだった。

アルビコッカの接客に関しては細かい決まりがある訳じゃなくて、その時に手が空いてる方がやれることをやる事になっている。樹とは事前に何も話していなかったけど、Aちゃん達の対応は俺がしたかったのに。ちらりと楽しそうに話すAちゃんと樹が視界の端に入るともやもやとした気持ちが沸き上がる。

だけどAちゃん達が近くを通った時に目が合って笑いかけてくれて、その瞬間だけもやもやが和らいだ。

樹が顔見知りの相手の時に接客が多少長くなるのは別に今に始まったことじゃない。明らかに樹目当ての常連客が来た時も雑談を交わすことはある。だけど。

——全然違う顔して笑うじゃん。

Aちゃんに向けられた樹の柔らかい笑顔を見て思う。女の人に笑顔を向けて喜ばせることが上手い樹だけど、上手く言葉では言い表せないけれど、他の人とAちゃんに向けられる表情は何かが違った。
前からうすうす感じていたけれど、ついさっきまで他のお客さんの接客をしていた樹を見ていたから余計に「違い」を強く感じずにはいられなかった。

/

「そうだよ、え、逆に仲悪いの？」
「めっちゃ仲良さそうに見えたけど」

そんな会話が聞こえてきたのはAちゃん達のテーブルからだ。他のテーブルからも話し声がする中でAちゃん達の声だけやけにクリアに聞こえた。なんかで見かけた(どこで見たかを覚えていない時点で正しい知識かは怪しい)けど、こういうのをカクテルパーティー効果というらしい。

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