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夜久「俺本当にダメだよな、何か。
待っててってワガママ言ったのは俺なのに、狼谷のことばっか気になって、いっぱいいっぱいになっちまうの」
『……へ』
辛うじて出てきたのは、言葉ですらないただの音。
流石に引くかどうか、それの返答をしようと引かないよと言った。いや、正確には言い終えたんだけど、ちょうど被せるように西谷くんがやってきたのだ。
西谷「衛輔くん！音駒のマネさん！ちっす！！！」
夜久「元気だな、夕！」
『ちっす、どうしたの？』
西谷「あの、潔子さんから聞いたんですけど、マネさん前にセッターとリベロやってたって本当ですか！」
『うん、本当だよ』
元気な西谷くんの勢いで、さっきまでの甘酸っぱいあれはなかったことになってしまった。先ほどとは打って変わって、まるで母親のように私たちを見守る夜久が視界の隅にいた。
西谷「オレ今、トス練習してるんですけど上手くいかなくて、ちょっと教えて欲しいンですけど…」
『いいよ、何に困ってるの？』
西谷「トス上げるのはバックアタックの時に旭さんになんですけど、どうしてもボールをスっとあげらんなくて…今日も変な音しちゃったんです！！！」
『あー、そうだね。わかるなそれ。
私もセッターとして入り始めた頃はセッティング苦手でめちゃめちゃドリブル取られてたよ、懐かしいな〜』
西谷「どうやって練習しましたか？」
『とりあえず、壁打ちはやってるでしょ？
うーん、私はいつでもスパイカーをイメージしてたかな。セッターだと他に何人もスパイカーを想像するわけだけど、西谷くんの場合なら東峰くん1人だからその分鮮明にイメージするの』
西谷「確かに……壁打ちン時はとにかく落とさないようにとか、別のことばっか考えてた気がします。あざス！！！」
『うん、頑張れ〜』
相変わらず嵐のような子だ、夜久が呆気に取られている。
『あのね夜久』
夜久「な、何？」
『私は、夜久がどう思ってても引かないよ。だって、そういうところも含めて夜久でしょ？』
夜久「ウン」
『帰ったら春高の1次予選あるし、文化祭の衣装も出来たらしいし、頑張ろうね！』
夜久「おう！」
お、すっかり元通り。さっきみたいな自嘲気味な微笑みではなくて、ニッカリと白い歯を見せて笑ってくれた。
名前で呼んでもらいたいみたいで察されるのは恥ずかしい、とか、色々考えていたけれど、夜久もいっぱいいっぱいだってことを聞いて安心した。
『私だけじゃなくて、よかったよ』
友人の方へ走っていった夜久の後ろ姿を見送って、そんなことを呟いた。
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作者名：HAL | 作成日時：2024年3月6日 23時
