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『お兄ちゃん』
「何だ？」
『お兄ちゃんは恋人とかいないの？』
「何だよ藪から棒に」
『うーん、私はさっき一生独身を貫くことを決めたから、お兄ちゃんはどうなんだろうって思って。
今まで私の話ばっかりだったじゃない。』
「たしかになぁ……けど、そういう感じでも無かったし相手はいないさ」
『えぇ、水野の血が絶えちゃうの大丈夫かなぁ』
「まあでもさ、Aはどこに出しても良い子だから、今からでも遅くないんじゃねえの？俺は大分遅いから半分諦めてるけど。」
『ほんと？嬉しいな。
ねえ、もう何年も前だけどさ、同窓会とか行くと赤ちゃん連れてたりして、なんだか焦ってたんだよね。同窓会に炎司くん来たことは無かったけど、今考えればそれも救いだったのかな』
「同窓会か、俺も久しく行ってないな。
いい機会だしクラスメイトだったヤツらに声掛けてみようかな。」
『よしその意気だお兄ちゃん！』
ウキウキしながら病室を出ていった兄の姿に、私はホッと一息をついた。
だって、警察とはいえ毎日毎日頑張って激務なのが見て取れるほどにやつれて帰ってきて、玄関先で寝ちゃうこともあったりする。
だから、癒しになってあげるような奥さんや子どもの存在は必要だと少し思っていた。それをあまり直接は言えないけれど、でも歳も歳だから、と言ってないで明るく考えて欲しかったのだ。
『いい仕事した気分だ〜！散歩しよ！』
入院してから数週間が経過し、病院の敷地内であればもう1人で歩き回ってもいいと言われている。
ということで、私は今日ここの屋上に行ってみようと思う。
『うし、準備完了っと……はぁい？』
ベッドに腰掛けて義足を装着し、1歩目を踏み出そうとしたところで、部屋の扉がノックされた。
「轟、焦凍です。入っても大丈夫ですか？」
『うん、どーぞ？』
「こんにちは、最近は大分落ち着いたって聞いたんで、お見舞いに来ました」
『どうもありがとう！
私、今から屋上に散歩しにいこうと思ってたんだけど、一緒にどう？』
「ぜひ！」
そうして、焦凍くんと肩を並べてのんびり屋上まで向かった。
『焦凍くんってさ、私のこと好きって言ってくれたじゃない。』
「はい」
『きっかけとか、聞いてもいい？気になるなあ』
「きっかけ、は……親父です。」
『それまたどうして』
「絶対そういうのに疎いはずなのに、貴方のCDを買っていたり、メッセージアプリのスタンプ送ってきたりして、気になって……っていうのがきっかけです」
『恥っず』
「そうですか？」
『うん』
なんて、恥ずかしいけれども色々楽しい話が出来た。
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作者名：HAL | 作成日時：2023年12月29日 7時
