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『時々すごく不安になるの。
貴方がどこかへいなくなってしまうんじゃないかっていう、そんな夢』
「なんだよそれ、大丈夫さ。
言っただろ?俺が命をかけて守るってさ」
『でも、君は昔のように夢を追いかけるまっすぐな君じゃあなくなってしまった。』
「どうしてこうなってしまったのか、分からないんだ。」
彼と私の夫婦仲は良好、私生活は順調、仕事にも困っていない。
それなのに、いつからかおかしくなってしまった私と彼の人生。
あぁ、はじめから私の人生はおかしかったのか。
『やっぱり、ムリだったんだ……』
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千堂「おーい、A?」
『ん、ごめん、どうしたの?』
千堂「ボーッとしてた、大丈夫か?」
なんてことないように振る舞う私を、心配そうに見つめてくれる彼の瞳が好きだった。
振り向かせるだなんていう落とし文句が、本当に現実になってしまう時がくるなんて。当時の私では想像も出来なかった。
『いけないっ、柴くんから連絡来たから行かないと!』
千堂「ん、行ってらっしゃい。」
今ではすっかりとちゃんとしたカップルになった私たち。
私は柴くんのところに今勤めていて、敦は夢を叶えて今は美容師見習いをしている。
お互いにまだまだ足りないところばかりだけれど、それを補い合う生活も悪くないのだ。
『オーナー、遅くなりました』
「別に構わねえ。今日は新しく仕入れる魚を見に行こうと思う」
『えと、それは…食べるやつ?』
「水槽の中に泳がせるやつだ。」
『あ、なるほどぉ〜』
良い話が来ている、とバインダーを渡されてそのまま車に乗り込む。
バインダーには今から行う商談の相手な取引内容など、業務に関する様々なことが書かれているのだが今日は珍しく魚のことが特に詳しく書かれていた。
なんでも飼育するのにかなり手間がかかるようで、その手間を惜しむと直ぐに死んでしまう可能性もあるからとかなり丁寧に図付きでびっしりと文字が並んだページを捲った。
『ぁ、』
ちょうど車も信号待ちをしているときのこと、真横に位置した裏路地で何やら人がいるのが見えた。
「……何見てる?」
『いえ、ちょっと路地にいた人たちが気になって。』
「どうせ梵天の奴らだろう、あまり見ると顔を覚えられるぞ。」
そうやって前を向きながら言う彼もまた面白かった。
かつて私を気に入った、と黒龍に引き入れ、時が流れて今は同じ会社で働いている。
不思議と嫌な気持ちはなかった。
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作者名:HAL | 作成日時:2023年7月8日 22時