実らない恋 4 (ページ29)

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松野「A、練習すんぞ」

『おうよ〜』

最近の放課後、私と千冬はバイトのシフトを入れず演劇の練習に勤しんでいる。

服飾係の子がどうやら三ツ谷くんとも知り合いだったらしく、素敵な衣装を作ると意気込んでいるのを知って、私も中途半端には出来ないと思ってしまったから。

『まあ、リンゴをくれるのね？
とっても美味しそう、どうもありがとう』

そうして毒林檎をかじり、少し味わった後に苦しみながら倒れ込む。

松野「カーーーット！！！ちょっとリアルすぎねえ？」

『えぇ、難しいな。』

松野「表情が緊迫しすぎてんじゃねえの、なんか雰囲気が物々しい。」

『リアルよりファンタジーを追求すればいいの？』

千冬の演じる王子様の役は物語の終盤、棺に横たわる姫をみつけてキスをする、そして求婚をする。たったそれだけで結構出番も少ないのでこうして細かい私の演技に口を出す。

『だって魔女がレベル高いんだもん！！！』

そうなんだよ、魔女役の子がさ、ホントにノリノリすぎて凄く私も頑張んなきゃって気持ちになっちゃうんだからね。

その子は中学の時に演劇部に入ってたって言ってたから、なおさら負けたくないって思うし。

「あぁ、白雪姫……可哀想に。」

「どうしたら目を覚ましてくれるの？」

「毎日君の好きなお花を摘んでいるのに、」

「今日も白雪姫は目を覚ましてくれないのね。」

"「小人たちは、毎日姫の棺を囲んで涙を流していました。」"

"「来る日も来る日も白雪姫のそばに行き、彼女が目を覚ますのを待っていました。」"

セリフの練習もいい感じ、小人役もナレーションの子も本番さながらって感じでこのシーンでは横たわるだけの私も悲しい気持ちに包まれる。

ここから先は本番のお楽しみ、千冬もしっかり王子様の役に慣れたみたいでクラスメイトからも好評だった。

ここだけの話、役の割り振りが終わって、さあセリフを付けて練習するぞ！というときの千冬は棒読みも良いとこだった。セリフは噛み噛みでその言葉に気持ちなんてまるで乗っていなくて、圭介くんの墓前で爆笑しながら報告したほどだ。

それがこんなにも変わるとは、って感じ。

松野「なぁ、俺らのクラスが演劇やるのって他のクラスはあんまり知らねえのかな？」

『そうなの？』

松野「いや、あっくんとか相棒とかと話してて、すげえ驚かれたんだよ。」

『役じゃない？』

松野「あー確かに、Aも姫役だしな。」

『そゆこと。』

文化祭まで残りあと2週間弱。その日は私にとってきっと忘れられない、大切な一日になる。