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それから、自分がなにを話したのかよく覚えていない。

怖くて、何を話していいのか分からなくて、何を話しても有意義な時間にはならないんじゃないかと思って。


「おーい、大丈夫?」

『こ、このいさん……すみません』

「いや、俺はいいんだけど。
Aチャンまじで大丈夫だった?すげえ顔色悪いよ」

『え、そうです…かね。
お時間取ってくれてありがとうって佐野くんに伝えておいて貰えますか?

私は、1人でも帰れますので。』


というか、あの空気の中で普通に過ごせる人と一緒に居るのが怖かった。

あの美人さんは以前は武藤さんと一緒にいた三途くん、佐野くんから有り得ないぐらい殺気を感じたときには、彼の口角は上がっていた。

九井さんも九井さんだ。あの人たちに何か大きく出れる要素が彼にあるのかは知らないけど、ずっと飄々としていた。


『………』


唯一覚えているのは、私の言ったこと。

"『龍宮寺くんや三ツ谷くん、東卍のみんなは、今も楽しそうです。』"

その一瞬だけ、佐野くんの緊張が解れていくのを感じた。




だから分かった。佐野くんは怖くて昔とは違うところばかりだったとしても根っこの部分では東卍のみんなが大好きなんだってこと。


まあ、恋愛相談なんてまるで出来なかったけどね。







『………帰ろ帰ろ!!』


なんて、明るい気持ちで帰っていたのに私は本当にタイミングの悪いやつだ。

電車でたまたま武道と日向の居る車両に乗り合わせてしまったらしく、2人の笑い声が聞こえてくる。


幸いなのは、お互いに顔が見えないこと。私には、それだけでも本当に救いだった。


『(声を聞けるだけでこんなに気分が上がるなんて、やっぱり君は凄いね)』

いつも降りる駅のひとつ向こうの駅まで乗車し、そこから歩く。


普段は絶対にしないけど、今日はまあ仕方ない。
それに今日は不思議と足取りも軽いし、悪くないのだ。


理由は、分かってるけどね。




家の前に着いたのはいつもよりだいぶ遅い時間、けど驚いたことに家の前によく知っている赤髪がいた。


『な、何してるの……?』

「何って、オマエ待ってたんだけど」

『どうして、何か約束してたっけ……?』


「別にしてないけど、会いたいからじゃダメなん?」


そんなことを言いながらニカッと笑う、これかぁ覚悟しとけって。


『ごめんね、今日はちょっと出掛けてたの』

「いや、顔見れたから満足。じゃ帰るわ!」

また明日、と手を振って帰ってしまった。本当に顔を見るだけで良かったのか、変なの。





けれどこういうのも悪くないと、柄にもなく思ってしまった。

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作者名:HAL | 作成日時:2023年7月8日 22時

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