・ ページ6
「医者、呼んである。あとで来るはずやから」
しばらくの間、隆平の顔を眺めていた横山だったが
一向に変化を見せない隆平にしびれを切らしたのか
章大にそう告げ、部屋を出て行った。
章大はというと、上官である横山に礼をするのも忘れ、
突然の朗報に唖然としていた。
このご時世、医者は軍医として招集されるため不足し
病気を患った者は皆里に帰されるのが常識であった。
ましてや、今苦しんでいるのは
兵でもない、一介の料理番である隆平だ。
普通ならば手当の一つ受けずに追い出されてもおかしくはない。
マルのために、医者を…
素直に喜んでもいいものなのか、
章大は横山からの手厚すぎる待遇に疑問を抱いていた。
それからしばらくして横山の言ったとおり、
町から呼ばれたのであろう
軍医としては任務に就けそうにない年寄りの医者が隆平の元を訪れた。
章大は医者にもざっと隆平の持病のことを話し
医者はそれを聞いた上で章大にすべきことを教えた。
薬もろくに手に入らない時代、
戦争のない頃のような十分な治療など一部の金持ちしか受けられない。
章大が教わったのは、ただの対処療法で
隆平にとって大きく回復に繋がるものではなかった。
「ありがとうございました」
それでも章大は部屋を出て行く医者に礼儀正しく丁寧にお辞儀をした。
『ここまで自分の身体を気遣う友がいるなんて、この方は幸せだ』
必死に隆平のことを伝える章大に
医者が微笑みながら掛けたその言葉が
章大の心をぽっと熱く燃やしたのだった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 190人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
You(プロフ) - 今更ながらこの作品に出会いました。良き結末であることを祈っております。 (2021年5月24日 1時) (
レス) id: 4838a1782f (このIDを非表示/違反報告)
よんぱち(プロフ) - 愛∞さん» ありがとうございます！世界観大切にしながら頑張りますね(^^) (2018年10月14日 22時) (レス) id: 133e76bc63 (このIDを非表示/違反報告)
愛∞(プロフ) - 相変わらず、すごいですね。こういう雰囲気とか世界観に最近ハマってます。頑張って下さい！ (2018年10月14日 11時) (レス) id: 64e52e5a9f (このIDを非表示/違反報告)
愛∞ - 新作作ったので、ぜひ読んでください。(大嫌いな君。) (2018年7月9日 21時) (レス) id: bcf804df6a (このIDを非表示/違反報告)
よんぱち(プロフ) - 愛∞さん» ありがとうございます。愛∞さんもがんばってくださいね(^^) (2018年6月30日 21時) (レス) id: 9f05dd0fde (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：よんぱち | 作成日時：2018年6月17日 21時
