。 ページ36
「…伊沢さん」
軽い音を立ててタッチタイピングしていた伊沢さんの元に歩み寄る。いつもなら「ん？」とこちらを向いた彼に、ドキッと乙女らしい反応をしていたのだが、今はその反応をする元気すら無かった
最近はオーバーリアクションだって取らなくなってしまったし、今度こそ、私の取り柄が全て消え去ってしまったような気がした
今の私は多分、今までで一番、つまらない人間だろう
ちょっと良いですか、と尋ねると彼は二つ返事でOKしてくれて、隣の部屋に移動する
カーテンが閉まって、明かりもついていない薄暗い部屋。振り返ると伊沢さんは私が話やすいように、笑顔を浮かべて急かすことなく先を待ってくれる
「……これを、渡したくて」
震えながら、シワのついた封筒をポケットから取り出して、彼の前に差し出す
「…え」
…ごめんなさい。折角、こんな私を見つけ出してくれたのに。こんな私をここに引き留めておいてくれたのに。何度も励ましてもらったのに。何度も認めてくれたのに。能力のことも受け入れてくれたのに
私は貴方になにも返すことが出来なくて、こんな紙を突きつけることしか出来なくて、本当にごめんなさい
「�狢狄Υ雖瓩辰董�Aちゃん、なんで…」
「…ごめんなさい…」
「なんか、不満なことでもあった？それとも、またお父さんか？なぁ、Aちゃん。なんで…もしなんか悩みがあるなら、俺が聞くから、だから…頼むから、理由を教えてくれよ」
違うんです。不満なことなんて、微塵もなかったです。むしろ良いことばかりで、毎日が楽しかったです。申し訳ない気持ちで挑んでいたクイズも、今は心の底から楽しめるようになって、点を取る度に、心の底から喜べるようになって
あれからも度々お父さん達から連絡が来ることはあったけど、あの時言ってくれた仲間だからって言葉のお陰で、自信を持って辞めないって断言できるようにも、なったんです
…でも結局私は弱くて、辞めるという決断をしてしまった、それだけなんです
「…今まで…ありがとう、ございました」
「ッAちゃん！！」
深々と頭を下げて、部屋を出る。うつむいたまま、自分のデスクに置いていたリュックサックをかっさらって、訝しげな表情で私を見つめる皆さんになにも言わず一礼する。そして、そのまま早足でオフィスから飛び出した
エレベーターの所まで走って、非常階段に身を潜める。するとやはり、後ろから一人分の足音が近づいてきた
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 588人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「QuizKnock」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
白菜(プロフ) - しぃさん» いえいえ！ご希望に添えたなら良かったです！ 今回は話数が限られていたので、初めて直接うらツク内に書かせていただいたので少々展開等が変になっているかもしれませんが、そこも愛嬌ということにしておいてくださると嬉しいです(笑)リクエストありがとうございました (2020年2月2日 0時) (
レス) id: f8ddf3423a (このIDを非表示/違反報告)
しぃ(プロフ) - 白菜さん» ごめんなさい！完結後にもかかわらずリクエストしてしまって…でも最高でした！もう推しのにやにや顔を想像して昇天しそうでした← (2020年2月1日 22時) (レス) id: 1457e73937 (このIDを非表示/違反報告)
しぃ(プロフ) - 白菜さん» そうですね。以後気を付けます！ (2020年1月27日 22時) (レス) id: 1457e73937 (このIDを非表示/違反報告)
まつりか(プロフ) - 白菜さん» 神ですよー！にしても少し回復したようで良かったです！私含め皆さんが白菜さんの事気にかけていたので、コメントを見てもっともっと元気を出して貰えたらと思います！ (2020年1月27日 21時) (レス) id: e802cc95c8 (このIDを非表示/違反報告)
白菜(プロフ) - しぃさん» ありがとうございます！リクエストの方ですが、あと二話ほどなら入るので短くはなりますがなんとか書いてみます！そして細かいかもしれませんが、次回からはお名前をsngwというように伏せていただけると助かります(笑) (2020年1月27日 21時) (レス) id: f8ddf3423a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
