【Q|K】影の薄い彼女は薄影さん #2【izw】

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「―――優勝は、薄影Aー！！」


　福良さんが高らかに私の名前をマイクに向かって叫ぶと、ノリの良い会場は一気にわっと沸き立つ

　こんな筈じゃなかった。優勝してまず最初に思ったのはそれだった
　私の中の予定では最初の方であっさりと負けて、後ろで応援するだけの係りに回るつもりだったのだ。なのに、今パーンッと紙吹雪を浴びせられている私は、明らかに後ろで応援してるだけの奴ではなかった
　ステージ上でも私が一番前に立っていて、会場の視線はほとんど私に集まっている


　なんで、なんでだ、なんで私が優勝しているんだ。記憶力しか取り柄がなくて、大して頭もよくない私が、なんで伊沢さん達を差し置いて優勝しているんだ


「ハンデがあったにも関わらず見事優勝を掴み取った薄影さん、なにか一言お願いします」


　そう言って福良さんにマイクを手渡される。突然の振りに素直にマイクを受け取ってしまい、たすきがずり落ちている事にも気づかず「…へ」と間抜けな声が口から飛び出す
　な、なにか、一言…？一言もなにも、私もあまりよく分かっていないのだ。優勝したという手応えも、勝ちをもぎ取ったという感覚も、なにも無いから。気づいたら、ここに立っていた


「…あ、あの…えと、優勝した、という気持ちがあまりなくて、その、だ、大分、戸惑ってます…」


　これくらいで良いですか、と福良さんに視線を送ると、指でもう少しだけ話して、と合図されたので、なんとか頭の中から話題を絞り出す
　こんな風に視線が集まる状況に慣れていないから、何を話したら良いのか分からない
　それに、言葉が、上手く紡げない。喉の奥でなにかがつっかえているようで、視聴者さん達を退屈させないよう伊沢さんのように話そうとしても、思うように声が出せない


「…そ、の…えと…」


　なにか、なにか皆さんがあっと驚いてくれるような事を言わないと。じゃなきゃ、私はただグダグダくだらない話をして話を終えた奴になってしまう
　だからといって今この場面で今まで記憶してきた事を披露しても、ただ知識をひけらかしたい奴という印象になる
　でも誰もが知っていそうな事を言っても、きっとつまらないだろう。誰も知らない、尚且つ意外性があること…


　…意外性があるかどうかは、分からないけど。私の能力なら、誰も知らないし、少しなら、驚いてくれるかもしれない

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