酔う ページ3
仲間に言われるがままに酒を飲んだ。
ちょっとした好奇心だった。
そしたら俺の、この胸の奥の方の空洞が埋まるかもしれないと思った。
残ったのは頭の悪い仲間とどす黒く重い何かだった。
俺は高校時代、所謂目立つタイプだった。
そこそこ大きい声を出し、そこそこの悪いことをし、そこそこに好かれ、そこそこ嫌われていた。
関係ないやつから嫌われることは、痛くも痒くもなかった。
そんなことよりもクラスでの地位が、仲間が俺には大切だった。それだけが生き甲斐だった。
そして、彼女がいるかどうかは地位や仲間を保つために大切だった。
何もしなくても彼女はできた。この地位でさほど悪くない顔の俺は女子には優良物件だったのだろう。
似たような地位の女子に告白され、付き合って別れてを繰り返していた。
それなりの女子は顔はかわいいし、ノリも合うので別段断る理由もなかったが、特別好きになることもなかった。
俺には、好きな人がいた。
彼女は本と勉強が好きで、趣味の合う友達もいて、真面目で優秀な生徒だった。
凛としていて、しっかりと自分の意志を持って行動できる彼女にいつしか心惹かれていた。
しかし、彼女と俺の地位は違った。
言うまでもなく、俺の地位が彼女より高かった。
俺が彼女と付き合えば、周りになんと言われるだろうか。もし俺が告白して振られたら、ナカマにどう思われるだろうか。
俺は彼女に話しかけることすら出来なかった。
機会がある事に誰にもバレぬよう、夢中で彼女を盗み見た。
彼女がきらきらとした瞳で読む本を買った。
彼女が友達と好きだと話していた曲を、夜中にこっそり聴いた。
彼女が好きだと言うだけで、俺もそれが好きになった。
その彼女のきらきらした目が、俺の大好きな目が、先生に向いていることに気がついた時、ぶん殴られたようなショックを受けた。
彼女を取っかえ引っ変えして、夜中まで仲間と遊び、大声で笑っても楽しくなかった。
悩みを相談できるわけもなく、ナカマに囲まれた俺は1人だった。ただ先生が疎ましかった。
虫のいい話だ。自分で何もしていないのに、勝手に恨んでいる。
リア充だと言われた。彼女もいて、ナカマもいて、チイもある。青春してるねと。
笑わせるなと思った。俺は何も充実していない。
俺が守ってきたものは何ひとつ意味の無いものだった。
今日も酒を飲む。喉がカッと熱くなる。熱くなる体に反し、心は冷めていった。
涙が溢れたのはきっと、酔っているせいだ。
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作者名:華河千咲 | 作成日時:2020年6月15日 23時