朝 ページ7
鳥の囀りが聞こえる。
｢ん…｣
目を開けるとそこには見知らぬ天井があった。
｢ここは…そうだ…私は…！菊！｣
体を起き上がらせようとした瞬間背中に激痛が走った。それと同時に頭を過ったのは、忘れてしまいたいほど悲しすぎる現実だった。
｢そうか…菊は死んだんだ…あの怪物に殺されて…私だけが生きている｣
背中の痛みは、自分だけが生き残ってしまったという事実を嫌という程突きつけた。
｢あのまま死んでいれば…｣
どれほどよかったろう。
思わずそんな言葉が口から漏れた。
みんなと一緒に居たかった。私も連れて行って欲しかった。
そんな言葉ばかりが頭を巡り、暫くぼうっとしていた。
すると、障子の奥から足音が聞こえてきた。
その足音は段々と大きくなり、やがて何者かの影が部屋の前で止まった。
｢失礼する。｣
聞き覚えのある声だ。
などと思いながら返事をすると、昨夜私を救った男が部屋に入ってきた。
｢目が覚めたようだな、加減はどうだ？｣
真っ直ぐで優しい声だ。
｢はい、背中は痛みますが…助けて下さってなんとお礼を申し上げたら良いか…｣
｢いや、礼には及ばない。背中の傷はかなり深いものだったが、医者によると数日安静にしていれば問題は無いらしい。回復が早いとのことだ。｣
｢そう…ですか…｣
どうでも良い。命などあったところで、もはやどうでも良いのだ。
半ば生きることを諦めていた私の心を見透かしたように男は告げた。
｢君の妹は、俺ともう1人の隊士で埋葬した。山の上にあった男女の亡骸も一緒に。たとえ辛くとも、生きるのを諦めてはならない。生を全うするのは、残された者の務めなのだから。｣
黙って聞く私に男は続けた。
｢君が見た化け物、あれは鬼という。人をくらって生きる非道な生き物だ。俺たちは奴らを殲滅すべく日々戦いに身を投じている。時に、君の妹を守れなかったのは俺の責任だ。もしも、俺が一刻も早く君たちの元へ駆けつけていたならば、君の妹は死ぬこともなかった。｣
違う、貴方のせいじゃない…。
私の…
｢無論、君のせいでは無い。人間と鬼は全く別の生き物だ、元は人間といえど君が適う相手では無かった。｣
その男の言葉は、私の心を救うのに十分すぎる言葉だった。そして、無意識の内に隠していた悲しみが涙となって溢れ出した。
｢あの…本当にありがとうございました…えっと…｣
｢すまん、申し遅れたが俺の名前は、煉獄杏寿郎と言う。この家の長男であり鬼殺隊隊士だ。｣
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作者名：ヨム | 作成日時：2020年10月21日 0時
