《8》Fight. ページ10
＊
時と場所は少しばかり流れ、敷地内の道場に移る。
「じゃあ、桜木よもぎと…」
「僕がやりますよ」
手を上げた茶髪の男は「君のその鼻っ柱を折ってあげるよ」とよもぎを見下した。よもぎはそれに対抗するかのように『上等だ』と下から睨んだ。
「ちなみに僕は沖田総司、よろしくね」
『よろしくするつもりはないがな」
野月は横で小さく『大倶利伽羅さんかな』と首を傾げた。
「じゃあ総司、やりすぎないように頼む。そして桜木野月は…」
『私は誰でも良いですよ』
はぁ、と小さくため息を付いている彼女の様子を見るに諦めたのだろう。
「じゃあ原田、」
「俺で良いのか？…ま、よろしくな」
『はぁ…原田さん、よろしくお願いします」
「ああ」
ペコリ、とお辞儀をした野月はよもぎから木刀を貰い軽く振った。
「先ずは総司とよもぎからだな」
よもぎと沖田は互いを睨み見ながら木刀を構える。原田以外は木刀、原田は槍を模したものを今回得物として使用する。
「両者、構え」
厳格な土方の声が道場に響く。野月はよもぎに言葉を乗せた鋭い視線を向ける。(能力は使っちゃだめだからね)と。すると(分かってるに決まってるだろう。私を誰だと思っている？)と返ってくる。野月はその言葉に返さず、心の中でぽつりと答えた。
(よもぎは死神隊総督であり、私の大切な友人であり、相棒であり、師でもある戦闘狂だと思ってるよ)
「始め！」
土方が手を上げた。と同時に、よもぎが床を蹴って沖田の方へと飛んだ。
『はァッ！』
「ッ！なかなかやるね…」
バシィン！と木刀が交わった音がする。よもぎはまだ本気を出していないのだが、少なからず死神隊中等部員ならばとうてい受け止めきれないものではあった。
『面白い…これはまだ本気じゃねぇよ！』
目をギラつかせたよもぎは沖田の木刀をその体から出ている力だとは思えない力で蹴り飛ばし、其の隙を突いて沖田の首筋に木刀を添える。
『私の勝ちだ』
一瞬にして終わった勝負に野月を除く全員が目を見開く。土方は「勝者、桜木よもぎ！」と思い出すかのように結果を伝えた。
皆「あの総司が…？」というような反応をしている。
「ねえ」
『なんだ？」
「はあー…さっきも言ったけど僕は沖田総司。一番隊隊長だよ」
『お前が誰かなど関係ない。野月に手を出したら殺す』
よもぎは軽く睨みつけ、そそくさと野月の方へと歩いていった。
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作者名：柏よもぎ | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/
作成日時：2022年8月13日 9時
