烏よ、彼の ページ41
日向のスパイクが白鳥沢の空いた所に迫る。
山形が必死で腕を伸ばした。
ボールが返らず、後ろへ長く伸びる。
白鳥沢の面々が驚いたように目を見開いた。
大平が遠くで落ちかけるボールを追った。
──ダン、と妙に静かにボールが落ちた。
暫しの静寂。
思い出したように、遅れて笛が鳴った。
それは勝者を決定する音。
そして敗者を決定する音。
さざ波のように勝利への興奮が高まる。
澤村｢よっ、しゃああああ！｣
澤村が泣きながら叫んだ。
ウォームアップゾーンに控えていた選手達もコートに飛び出して来る。
ボロボロに泣いた菅原が澤村とAに飛びつく。
菅原と澤村は興奮気味に叫ぶが、Aは笑って静かに涙を流しただけだった。
その様子を見ていた月島が悲しげに目を伏せた。
──今、この瞬間に。
椎名Aのバレーは終わったのだと。
彼の流す涙は、勝利への喜びであると同時に、終わってしまった自分自身の選手生命への悲しみでもあった。
彼は顔を歪めることすら、涙を拭うことすらせずにただ静かに泣いていた。
彼には、もはや膝が痛いのか胸が痛いのか判別がつかなくなっていた。
握手をした後、コートに向かって、そして白鳥沢の選手に向かって深く礼をする。
──Aだけが顔を上げなかった。
彼の心は分からない。
生きがいを奪われた怒りか。
それともコートの中で過ごした輝かしい日々への感謝か。
それとも他の何かで埋め尽くされているのか。
Aの礼を見て、牛島が再び礼を取った。
彼に、｢また、来年に｣の言葉は無かった。
Aがゆっくりと顔を上げた。
──穏やかな顔だった。
その顔には憤りも悲しみも見当たらない。
遂に、バレーが出来なくなること、その全てを受け入れたのだ。
ベンチへ移動する。
Aの顔を見た烏養と武田は、もう何も言わなかった。
ただ、｢よくやった｣とだけ震える声で言った。
その一言に、全てが込められていた。
──こうして、最後の一日は終わって行く。
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けっしー - 今更ですが、感想をどうしても書きたかったので、書かせていただきます。この作品に出会えて良かったです。これ程惹かれる作品に初めて出会いました。終わりまで綺麗で涙を流してしまいました。今更ですが、更新お疲れ様でした。 (2020年5月24日 13時) (
レス) id: c8f6957e50 (このIDを非表示/違反報告)
るるまみ - 感動しました。この作品を作って下さりありがとうございました。私自身膝を壊して引退せざるを得なくなった身なので共感できる場面多かったです。更新お疲れ様でした！ (2019年12月7日 18時) (レス) id: 727e2b3150 (このIDを非表示/違反報告)
よもぎ(プロフ) - ��さん» 返信が遅くなり、申し訳ありません。更新を楽しみに待って頂けて、本当に嬉しい限りです。応援ありがとうございました！ (2019年10月25日 21時) (レス) id: 3bd3258fc4 (このIDを非表示/違反報告)
よもぎ(プロフ) - うさぎさん» ありがとうございます！ そんなに褒めて頂いてとても嬉しいです。長い間応援ありがとうございました！ (2019年10月23日 7時) (レス) id: 3bd3258fc4 (このIDを非表示/違反報告)
うさぎ - 完結おめでとうございます。シリーズの最初からずっと面白い作品で夢中になって読んでいました。本当に最高の作品でした。お疲れ様です。 (2019年10月22日 23時) (レス) id: 1ab5dd9ceb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：よもぎ餅のわらび | 作成日時：2019年10月6日 17時
