烏よ、道は ページ4
6月3日(月)
インターハイ宮城県予選3日目。
3年4組──。
澤村「俺はここで退いた方がいいと……思ってる」
『──は、』
澤村の言葉に、Aは思わず声を漏らした。
昼食を食べ終わったA達3年生バレー部はベランダに集まっていた。
遠くの方から、気の早い蝉がうるさく鳴いている。
それが聞こえるほど場は静まり返っていた。
『澤村……。春高、行くんじゃねぇの?』
Aが静寂を破る。
澤村は小さく唇を噛み締め、言葉を続ける。
澤村「今の1、2年見てたら少しでも早く、あいつらに部を明け渡した方が絶対に良いと──」
菅原「大地、それって本音?」
澤村の話を遮り、菅原が珍しく真剣な顔で言った。
澤村もまた、真剣な顔をしているが──。
Aには、少し苦しそうに見えた。
『なぁ澤村』
澤村が顔を上げた。
『確かに、早く後輩達に部を明け渡した方が良いかもしんない。──けど、俺は自分のことが可愛い』
「もちろん後輩も可愛いけどな!」とAは付け加える。
その部分で菅原が大きく頷いた。
『だから、俺は我慢しない。後のことなんて知ったこっちゃない。俺は俺の、やりたいことをする』
いっそ清々しいまでに自分の欲望を吐き出すA。
澤村はパチパチと何度か瞬きをする。
Aは澤村を試すように眼光を鋭くさせた。
『──だから、お前もやりたいことしろ。主将じゃなくて、一人の部員として』
澤村「っ、」
澤村は息を詰め、顔を歪めさせた。
そして、少し潤んだ目で口を開く。
澤村「俺は……」
Aと菅原は待つ。
澤村の握った拳がカタカタと震えた。
澤村「俺は、まだやりてぇよ!!──お前らと、まだバレー。してえ」
『上出来』
ようやく自分の意見を言った澤村に、そう言ってAが微笑んだ。
菅原は安心して、拍子抜けしたように頭の後ろで手を組んだ。
菅原「──結局、俺の言いたいこと全部Aに言われちゃったなぁ」
『えっ、ごめんスガ』
菅原「許しませーん」
唇を尖らせ、菅原がフイッとAに背を向ける。
慌てるAに笑いを誘われ、澤村はようやく気の抜けた笑い声を漏らした。
273人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「ハイキュー」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
紅嵐(プロフ) - 孤爪が狐爪になってますよー。 (2020年5月30日 8時) (レス) id: 1d90d43033 (このIDを非表示/違反報告)
よもぎ(プロフ) - テトさん» 分かりました! 頑張って会話、増やして行きます。更新は暇なときは異常に頻度が高いのでご安心を。 (2019年9月9日 7時) (レス) id: 3bd3258fc4 (このIDを非表示/違反報告)
テト - この作品とっても面白くて好きです。更新楽しみにしてます!武田先生と烏養さんとの会話増やして欲しいです!あと、松川さんと花巻さんと会話してほしいです!菅原さん推しです。 (2019年9月8日 23時) (レス) id: eecfed04fa (このIDを非表示/違反報告)
よもぎ(プロフ) - やった、及川さん推しが居ましたー! 夏葵さん、カミューさん、コメントありがとうございます。 (2019年9月7日 18時) (レス) id: 3bd3258fc4 (このIDを非表示/違反報告)
夏葵 - とても楽しく読ませてもらってます!及川さん推しです! (2019年9月7日 18時) (レス) id: 668af22414 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:よもぎ餅のわらび | 作成日時:2019年8月24日 17時