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参拾壱 ページ33

森のとある一角。
鋼鐵塚は傾斜を登り、ひょいひょいと木を集めていた。

「こんなもんでいいか。ありすぎてもなぁ」

山を降りようとする鋼鐵塚はぴたりと足を止めた。
人の気配がしたからだ。

「……誰かいるな」

気配の方向に向かって行く。その先には少しだけ開けた場所があった。
今の時間帯、陽の光がそこに降り注いでいる。

「……」

岩陰から面を覗かせると、人影がポツリとあった。

「おん、……な?」

一人の女性が岩に座っている。動く気配はなかった。
女性は淡い藤色の上衣を羽織り、座っている。
ふわ、と藤の香りが鋼鐵塚の鼻腔に届いた。

「この匂い……」

鋼鐵塚はその女性に近づいて行く。後ろ姿でもしや、と思った。

「A、」

器用に座りながら眠るA。鋼鐵塚はその姿をまじまじと見ていた。
心臓が脈打つ。胸が痛い。
この里に来たという噂は本当だったと鋼鐵塚は思った。

「って、こんなとこでなんで寝てんだ。おい、風邪引くぞ」

「ん……」

Aの唇が少し動く。ただ、それだけでぐっと心臓が止まりそうになる。桃色の唇がまた微かに動いた。

「かあ、……さん……」

「?」

「かあさ、ん」

「母さん……?」

Aはまだ眠っていて、夢の中のようだ。苦しそうな表情ではないが、今にも泣きそうだ。

「とおさん……」

「……」

そうか、Aは家族が恋しいんだ。そう鋼鐵塚は悟った。
鬼殺隊に入隊しているAはあまり家に帰ることはないのだろう。それ故、家族が大切な……掛け替えのない存在になっている。

鋼鐵塚は無意識に、Aを抱きしめていた。
Aの泣き顔を見たくないという気持ちが行動に現れていたのだ。

「A、……泣くな」

ぎゅうと力を込める。

「……代わりになるかわかんねぇ。でも……お前には、俺がいる」

女性を抱きしめた事のない鋼鐵塚は腕に力を込めていたが、まるで陶器品を扱うように優しくAを包み込んでいた。

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五十土(プロフ) - NANAさん» ありがとうございます!ドキドキできるような感じを目指しているのでとても嬉しいです^ ^頑張ります! (2019年12月14日 13時) (レス) id: a2d3564c6a (このIDを非表示/違反報告)
五十土(プロフ) - 牙さん» 鋼鐵塚さん可愛いですよねわかります!癒されてくれてありがとうございます(?) (2019年12月14日 13時) (レス) id: a2d3564c6a (このIDを非表示/違反報告)
五十土(プロフ) - コハクさん» ありがとうございます!更新しましたのでまたお楽しみください! (2019年12月14日 13時) (レス) id: a2d3564c6a (このIDを非表示/違反報告)
NANA - こんなに素敵な作品に出会ったのが久しぶりすぎて...ドキドキ止まりません...更新頑張ってください!! (2019年11月20日 16時) (レス) id: 714d999e70 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 最近鋼鐵塚さんが可愛く見えて仕方ないので、この小説を読んでると癒されます!更新待ってます!! (2019年11月16日 1時) (レス) id: aea81487e4 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:五十土 | 作成日時:2019年5月2日 22時

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