あなたをさらいに夜がくる ２【文スト】【深夜廻】

夜廻５６.追跡者 ページ28

ふいに、冷たい空気に包まれた様な感覚がした



敦は、攻撃していた手をぴたりと止める




猛烈な違和感を感じた





どうなってるんだ




ポートマフィアの建物から冷気を感じる




それは芥川も同じだったようで、先程から猛攻に徹していた羅生門が動きを止めた





何故だか動悸が速い




何にという訳でもないのに


何かがどうしようもなく怖くなる




敦は自分に起きた異変に困惑していた



それは周りの社員も同様だったようで


それぞれが自分の手のひらを見つめ、訝しげな表情になる



「よそ見するなんて随分余裕なのですね！」




樋口が銃を射つが、その銃口が震えているのを見る限り、向こうも同じなのだろう




芥川が、まさか‥‥と呟く




「お前、何か知っているのか」




「愚問だな。例え知っていたとしても、貴様に
言う必要はない。人虎」




芥川は冷たい瞳をすると、攻撃を再開する



自分に出きることは此処で探偵社へと攻撃を
仕掛ける事だけ




しかし




あの夜の光景が芥川の頭を過る




もしAが異能を使ったのなら




この状況にも説明がつく



だがこの仮説が正しかった場合、中の状況は‥




そこからは考えたくも無かった




１つ言えることは


己もまた、その「何か」を恐れる者の一人




少し強張りを覚えた腕に力を入れると、
その思いを振り払った





その様子を見た江戸川が、翡翠の眼差しを遠くに向けている事には、誰も気付かなかった




＿＿＿＿＿
＿＿



『こっちで、あってる‥‥ハズ』



誰に言うでもなく溢した言葉は、物音のしない
廊下に静かに響いた




耳につくのは、走りすぎてあがった息と、
自分の足音





上の階とは違い、本当に静かだった




体力の減りようと、異能力の使いすぎからか、
何だか足元がおぼつかない





『このまま、直線‥‥出口までもう少しある』





なるべく速く出てしまおうと、一歩踏み出した









＿＿＿その時




「どこに行こうとしているんだい？



‥‥Aちゃん」




振り返ったのはほとんど反射的だった





「駄目じゃあないか。勝手に外へ出ちゃ」




『あ、あ‥‥』




ポートマフィアの首領がにこにこと笑う







間接照明の灯された廊下に、紫が強く私を
射ぬいた








私はじりじりと後退る








どうしてこの道を選んだと分かったの







カメラは、全部使えなくしているのに







青ざめる私に構わず彼は一歩此方に踏み出した

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