あなたをさらいに夜がくる ２【文スト】【深夜廻】

夜廻４９.「大丈夫」 ページ12

『もう大丈夫だよ』


心配そうな顔の叔母さんに何回も言った言葉だ



全然大丈夫じゃなかった



眠れない夜は何回もあった


毛布の中にくるまって、耳をふさいで眠った



それでも「大丈夫」と言ったのは



『だって自分が壊れちゃうから』




戻りたいと願うのは辛くなるから



途切れそうな声で笑った


きっと酷い顔をしていた


涙が枯れるなんて、誰が言ったのだろう


果てしなく頬を濡らして、際限なんて無い



ずっとひとりで泣いてた



私が命を投げたのは曇りの日



最期の日としては随分風情が無かったと思う


でも、何故か今日だと思った


今日しか無いと思った


「大丈夫」という言葉で誤魔化してきた心が



壊れたのはあの日だった


誰かもっと責めて欲しかった


私に「大丈夫」と言わせないで欲しかった


そしたら私は開き直れたのに



そんな事を考えた私は、一瞬でも苦しさを
叔母さんのせいにした




最低な人間だった




『全部自分のせい

分かってたくせに馬鹿らしい』


最期の瞬




私は小さく呟いた


＿＿＿＿＿
＿＿



目が覚めて感じたのは違和感


「正面入り口だ！」


「急げ、速く！」


‥‥なんか外が騒がしい？




まだぼーっとする頭は、次の言葉で完全に
覚醒した



「何故武装探偵社が？」


「とにかく警護に向かえ！」




！？




『武装探偵社！？』



私は跳ね起きた



扉の向こうでしていた慌ただしい声は
遠ざかっていく


「正面入り口」

「急げ」

「武装探偵社」

‥‥‥


『‥‥‥‥下で、何か起こってる‥‥？』


扉の向こうはシーンと静まり


何時もの見張りの人の声もしない


その「何か」のせいで出払っているのだろうか


だとしたら



『‥‥‥もしかして、これって

チャンス？』


もしかしなくてもチャンスだ


今まで人がいなくなる事なんて無かった


今なら



今なら、異能力が使える



私は自分の両手を見た

息を吸い込む


『‥あなたをさらいに夜がくる』


‥‥嫌だとか言ってられないのだ


異能力なしでの脱出は不可能


いくら夜の者が嫌いだからといって
使わなければ絶対に出られない


‥‥‥


『あの神様は許してくれるかな』



こんな自分勝手な願いを聞き入れてくれる
だろうか


それでまた傷付けてしまうのは悲しい


『‥‥神様、わがままをお許し下さい


私は、ここから出たい

ずっとこの場所は、

‥‥‥‥‥‥もう、嫌だ』







ズドォォン！





世界が揺れた

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