検索窓
今日:12 hit、昨日:2 hit、合計:7,336 hit

諭吉と銀狼とネコ(5) ページ41

『愛する者を失った』。

その異能の言葉に、レイヤが息を飲むのが分かった。

諭吉もまた、驚いて凝視する。
本来、動くはずのないクマの口元を。

声は、確かに聞きなれた異能の声。
だが口調は、若干、クマのそれに似てきてはいないだろうか。

もしも、クマの意識が戻りつつあるのだとしたら……。
異能の発動はなくなり、この夜は終わるはずだ。

わずかな望みを見出す諭吉は、同時にレイヤへと声を掛ける。

「クマは、事故で伴侶を亡くしているのだ」
「!」

「もう二十年程、昔の話だ」
「二十年……。でも、それは……」

「ああ、そうだ」
「……」

互いに前を向いたまま。
だが諭吉は、レイヤが続けようとした言葉にうなずく。

今ならば、はっきりと分かる。
愛する者を失った悲しみに、年月は慰めにはならないということを。

それなのに、当時の自分は軽々しく曰った。
知ったような口を聞いた。
自分でも思っていないような、その場しのぎの言葉を、クマに浴びせた。

「年月は傷を癒す、悲しみを癒す。愛があるのならば、乗り越える事も出来るはずだ」、と。

お前が愛を語るな、と言い返されて当然だ。

そんな当時の諭吉をも嘲笑うかのように。
クマの口は閉じたまま、異能の笑い声が聞こえた。

「どうした、娘。話し合うのではなかったか? 言の葉を紡いでみせよ」

煽るような風。

「何が出来ると言うのだ。失った悲しみに、つまらん浮世に、一体何が……」

諭吉とレイヤの髪を弄びながら、威力を増して。

「一体、何が出来ると言うのだ!」

夜の森を揺らし、木霊となって。

「何も出来はせん! 何も……! 出来ることなど、何も…………」

手を繋いでいなければ、よろめいていたであろう威圧感の中。
レイヤの手のひらの温度は、より高く、燃えるように熱く。
諭吉の手のひらを焦がす。

「……出来ます」

レイヤの返答は、諭吉にだけ分かる、ほんのわずかな緊張も滲ませながら。

「私に出来ること、あります」

しかし変わらず、芯の通った声で。

「私、聞きます。異能さんの苦しい気持ちを聞きます。私には、……それが出来ます!」

そこでやっと、諭吉は隣のレイヤの顔を見た。

それが出来る、と叫ぶレイヤを。
それしか出来ない、とは言わないレイヤを。
その愛おしい顔を、見ずにはいられなかったのだ。

諭吉と銀狼とネコ(6)→←諭吉と銀狼とネコ(4)



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (9 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
18人がお気に入り
設定タグ:文スト , 福沢諭吉 , 夢小説   
作品ジャンル:アニメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

カナコ(プロフ) - 名無し40367号さん» 返信ありがとうございます!だいぶ更新が出来ずにいて、長々とお待たせしてしまって、本当に申し訳ありません。今後もゆっくりになってしまいますが、この作品が好きと言ってくださる名無し40367号様に飛んできていただけるよう頑張ります!よろしくお願いします!! (2023年3月30日 15時) (レス) id: 877faacbee (このIDを非表示/違反報告)
名無し40367号(プロフ) - カナコさん» 返信ありがとうございます!本当にこの作品が好きで通知来た瞬間嬉し過ぎて飛んで参りました。本当にありがとうございます。 (2023年3月30日 14時) (レス) @page40 id: 7bff5eda1b (このIDを非表示/違反報告)
カナコ(プロフ) - 名無し40367号さん» コメントありがとうございます!ものすごく久しぶりに読者様からコメントいただき、今ちょっとどうしていいかわからないくらい動揺してます。これからも楽しんでいただけるよう、更新頑張ります!コメント本当にありがとうございました!! (2023年1月10日 18時) (レス) id: d8c57c683a (このIDを非表示/違反報告)
名無し40367号(プロフ) - いつも神作品をありがとうございます!これからも頑張ってください! (2023年1月10日 18時) (レス) @page24 id: 7bff5eda1b (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:カナコ | 作成日時:2022年5月18日 12時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。