【文スト】社長と愛のネコ 18【諭吉】

諭吉と銀狼(９) ページ31

レイヤを守るため、クマを斬る。

その結論に達した諭吉は、心の靄が晴れ、清々とするのを感じた。

これこそが、自分の使命であり、実に大義のある行いだと確信したからだ。

躊躇いなどは微塵も感じずに。
粛々と、実行する事が出来るだろう。
……すでに、心の中の銀狼によって、完遂しているのだから。

ただ、一点。
これから起こる凄惨な場面を、レイヤに見せるわけにはいかない。

諭吉はすぐに、レイヤの肩に置いていた両手に力を込めて、グッと押し。
レイヤをしゃがませた。

「ふぎゃっ」、と声を上げ。
地べたに腰を下ろす形となったレイヤは。
やっと現実に意識が追いついたのか、パチパチと瞬きをしながら諭吉を見やる。

幼な子と目線を合わせるように、諭吉もレイヤの前に片膝を着き。

「レイヤ、ここにいろ。動くな」
「……え？」

「目を閉じていろ。……決して開けるな。私が良いと言うまで」
「……なんで？」

「目を閉じろ」
「え、いや、だからなんで……」

「早くしろ！」
「！？」

まるでいつもの調子の、緊迫感のないレイヤに。
諭吉は声を荒げる。

その諭吉の一声が、本格的にレイヤの目を覚ましたのだろうか。

レイヤの前髪の奥で、眉がギュッと寄るのが見えて。
愛おしい瞳が、力強く諭吉を睨みつけ。
そしてもちろん、口が開かれる。

「ねえ、どういうこと！？ 何するつもり！？ ちゃんと話してよ！」
「レイヤが知る必要はない！ 一刻を争うのだ！ 私の言う事を聞け！」

「却下！ 聞けない！ ちゃんと説明してくれなきゃ、言うこと聞けない！」
「レイヤ！」

「だって、変な顔してるもん！」
「！？」

「諭吉、さっきからずっと、変な顔してる！」
「！！」

……顔？
変な顔、だと？

それは、今、ここで、この状況で話す話題としては、あまりに不適切であり。
諭吉は、返事も出来ずに呆然とした。

「変！ すごく変だから……、最初、諭吉じゃないかと思った。『誰？』って思った」
「……」

「だって、私が見たことない、諭吉の顔だったから」
「……」

「私が今まで見たことない……、苦しそうな顔」
「！？」

「すごく、苦しそうだよ。さっきから、ずっと。……苦しいんでしょ？」
「！！」

諭吉は思わず、自分の顔に手を当てていた。
手で、顔を覆っていた。

『変な顔』とは、つまりは『苦しそうな顔』だと言うレイヤに。
……これ以上、顔を見られないため。

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