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言葉と銀狼 ページ4

諭吉は思う。
自分は、非言語による人物判断を訓練付けられていた。

言葉は、嘘を含む。
心にもないことを表すことができる。

だから。
相手の言葉を信じず、また己も言葉を用いずに、世の人波を渡り歩いてきたのではないか。

しかし本来、言の葉とは。
心の芯に由来して、内情と一致して、紡がれるものなのだ。

『結婚祝いだ』
『幸せにな』
『悪かった』

目の前の相手が、その心の内を、言葉にして伝えてくれるのならば。
これ程、信頼のおけるものはない。

「もっと早くに……」

諭吉は、徐々に火力を弱めていく焚き火を見つめながら。

「もっと早くに、語らうべきであった」
「……」

「なぜ今まで、こうして話をしなかったのだろう」
「……」

「例え私が、愛を知らずとも……」

愛を語るな、と一蹴されようとも。

「言葉を交わすことで、見えてくるものがあったのではないか……」
「……」

「……」
「……」

沈黙の中。
男が、おずおずと手を差し出すので。

諭吉もすぐに、己の手を出して。
意見の一致と、意思の疎通を表すために。
ガシッと力強く握手を交わした。

しかし、その手はすぐに振り解かれる。

「いや、いやいやいや、何してんだよ福沢」
「何? 握手だ」

「俺はな、コーヒーカップを寄越せって手を出したんだ。飲み終わったんだろ?」
「……」

「ほら、カップ返せ。ついでに膝掛けも」
「……そ、そうか」

急かされて、諭吉は最後に今一度、カップを勢いよく傾けて。
底に残っていた漆黒の一雫を口に移してから。
カップと膝掛けを、男の手に渡した。

「大体な、楽しくお喋りしましょうって状況じゃないだろ!?」

男は受け取った物を、荒々しい口調とは反対に、丁寧に片付け始める。

「俺の異能の発動条件は『返事』! 返事をしちまったら、異能は好き勝手に暴れ回んだ!」
「承知している」

「だったら、うかうか話し込んでられるか? ひたすら黙りこくって、異能が眠りにつくまで、やり過ごすしかない! もうずっと前に、お前が提案した策だろうが!」
「無論だ」

「そうかい、そうかい。で、にも関わらず、今年はなぜだか、うっかり返事しちまった訳だ」
「面目無い」

「いくら俺の異能が、年々弱まってきてるからってなあ……」
「む……。やはり、そうか」

「まあな。今までは、異能が覚醒している数日間は、俺はずっと夢の中。熊の冬眠だ。それが、ここ数年は、ふと意識を取り戻す瞬間もあった」
「ああ」

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設定タグ:文スト , 福沢諭吉 , 夢小説   
作品ジャンル:アニメ
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カナコ(プロフ) - 名無し40367号さん» 返信ありがとうございます!だいぶ更新が出来ずにいて、長々とお待たせしてしまって、本当に申し訳ありません。今後もゆっくりになってしまいますが、この作品が好きと言ってくださる名無し40367号様に飛んできていただけるよう頑張ります!よろしくお願いします!! (2023年3月30日 15時) (レス) id: 877faacbee (このIDを非表示/違反報告)
名無し40367号(プロフ) - カナコさん» 返信ありがとうございます!本当にこの作品が好きで通知来た瞬間嬉し過ぎて飛んで参りました。本当にありがとうございます。 (2023年3月30日 14時) (レス) @page40 id: 7bff5eda1b (このIDを非表示/違反報告)
カナコ(プロフ) - 名無し40367号さん» コメントありがとうございます!ものすごく久しぶりに読者様からコメントいただき、今ちょっとどうしていいかわからないくらい動揺してます。これからも楽しんでいただけるよう、更新頑張ります!コメント本当にありがとうございました!! (2023年1月10日 18時) (レス) id: d8c57c683a (このIDを非表示/違反報告)
名無し40367号(プロフ) - いつも神作品をありがとうございます!これからも頑張ってください! (2023年1月10日 18時) (レス) @page24 id: 7bff5eda1b (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:カナコ | 作成日時:2022年5月18日 12時

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