国木田のファミレス(24) ページ44
谷崎の笑い声に、タイミングを合わせたように。
きゃはははは、と。
列の前方で、事務員たちの笑い声が起こった。
谷崎は、笑いで涙ぐむ目を、人差し指で拭いながら。
事務員と、国木田を交互に見やり。
「あの、国木田さん」
「何だ?」
「国木田さんが、レイヤさんの仕事を見てあげて、いつも指導してるのって……、『親心』に近いんですかね?」
「親心、だと? そんなものがあってたまるか! 俺は親になった経験はないし、あいつの親になるつもりも、毛頭ない!」
「そ、そんなに怒らなくても……」
「……だが、俺が指導をすることで、優秀なスタッフが増えれば、それだけ探偵社のためにもなるというもの。……ひいては、社長のためだ」
社長のため。
それは、国木田の行動理念としては、真っ当な。
極めて腑に落ちるものであった。
だが国木田は、しばらく黙ってから、続ける。
「……いや、俺だって本当は、あいつの面倒なんぞ見たくはない。俺があいつに出来ることは、これ以上、もう何もないんだ。だから、な……。もうこれ以上、あいつの側には…………」
「国木田さん……」
「だが……。社長に、頼まれた。『レイヤに仕事を教えてやってくれ』とな」
「え? でも、さっきは……、春野さんに頼まれたって、言ってましたよね?」
「それは、レイヤの入社間もない頃の話だ。社長からは、つい先だって、な」
「そ、そうだったんですか……」
しかし、それは。
国木田にとっては、実に酷な状況ではなかろうか。
片思いに終わった相手の側で、仕事を教えなければならないのだ。
他ならぬ、恋敵の依頼によって。
「あいつの側で、あいつの仕事を見ていると……、実感する。側で見れば見る程に、痛感する」
「?」
「俺自身のスタンスってやつをな。俺が教えられること……、俺があいつに与えられるものなんぞ、取るに足りない」
「……」
「俺以外の誰かでも、充分に与えることが出来るものだ。本当は、俺である必要はないんだ。つまり……」
あいつにとって、俺の存在は……、その程度だ。
と、続けた国木田。
横から眺める国木田の顔は。
すべてを過去の出来事として、水に流しているようでもあり。
また、心のどこかに、拭い去れない何かを残しているようでもあり。
果たして、そのどちらが正解なのか。
または、どちらとも正解なのか。
谷崎には、やはり判断をしかねる案件であった。
6人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
カナコ(プロフ) - ライさん» ありがとうございます!!!!こんなコメントいただけて、嬉しくて涙出ました。愛読してくれる方に楽しんでもらえるよう、マイペースながらも頑張りたいと思います! (2019年6月6日 21時) (レス) id: 596e7dae07 (このIDを非表示/違反報告)
ライ - 好き!!!!!もう、本当、そーゆーところ大好きです!愛読し続けます (2019年6月5日 13時) (レス) id: c9f19c4ce0 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:カナコ | 作成日時:2019年6月5日 11時