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国木田のファミレス(19) ページ39

探偵社を出て。
駅前に向けて歩き出す。

昼とは違った賑わいを見せる、夜の街。

その街灯の眩さに、思わず目を細めながら。
谷崎は歩く。

つい今しがたまで、自分の腕にくっついていた妹は。
列の前方で、事務員たちの話が盛り上がっていることに気づくと。
スルリと腕を外して、小走りに、事務員の輪の中に入って行ってしまった。

抱きつかれる時は、驚き、ためらうくせに。
離れられると、物悲しい気分になるのも確かで。
そんな自分に、こっそりとため息をつく。

そして、ぼんやりと眺める、事務員たちの中に。
黒猫の髪飾りをつけた、レイヤの後頭部が見えた。

春野綺羅子と、ナオミに挟まれて……、

「レイヤちゃん。今夜の社長の予定は、『恋人とデート』だったと思うけど……、いいの?」
「え!? あ、いえいえ、デートって言うか、ただ、ご飯を食べようかーって、それだけで……」

「まあ、レイヤさん、夜景の綺麗なレストランで、ロマンチックなディナーの予定でしたのね!?」
「ええ!? いやいやいや、だから、そーゆーんじゃなくて……」

小突かれ、慌てた様子で、首を左右に振っているレイヤ。
その動きと一緒に、街灯を反射する黒猫が、キラキラと鈍く光る。

『お兄様、レイヤさんの髪飾り、きっと社長からのプレゼントですわよ』

初めて、ナオミにそう言われた時の衝撃は。
今でも、はっきりと覚えている。

まさか、と思い。
それから、絶句した。

谷崎にとってレイヤは。
コピー機の扱いが下手な、新人事務員でしかなく。

せいぜい、『国木田さんの教えに良くついていってるな』だとか。
『敦くんにも敬語で、律儀な人だな』だとか。
『ハンカチもペンケースも付箋も猫柄って、どれだけ猫好きなんだろう』だとか。

その程度の印象しかなかった。

ここだけの話、レイヤは異能も持たない、平々凡々な一般人女性であり。
まさか、あの社長と、そういう仲になるような人物には、見えなかったのだ。

いつも鋭い、ナオミの観察眼も。
今度ばかりは見当外れなのではないかと、疑った。
……海の家での、キスシーンを目撃するまでは。

結局。
谷崎の情報収集能力と、人生経験に基づく判断を。
遥かに凌駕する形となった、事務員の功績。

意外性、という意味では。
武装探偵社の中でも指折りの事件として、語り継がれることだろう。

……後は、まあ、一つ言わせてもらえるならば。

海の家であろうと、どこであろうと。
人目を忍んで仲良くして欲しい、と願うばかりだ。

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カナコ(プロフ) - ライさん» ありがとうございます!!!!こんなコメントいただけて、嬉しくて涙出ました。愛読してくれる方に楽しんでもらえるよう、マイペースながらも頑張りたいと思います! (2019年6月6日 21時) (レス) id: 596e7dae07 (このIDを非表示/違反報告)
ライ - 好き!!!!!もう、本当、そーゆーところ大好きです!愛読し続けます (2019年6月5日 13時) (レス) id: c9f19c4ce0 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:カナコ | 作成日時:2019年6月5日 11時

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