国木田のファミレス(14) ページ34
ワイワイ、ガヤガヤ、と。
これだけの人数が集まれば。
勝手に起こる、話の輪。
結局。
勤務時間と変わらないメンバーが集まった。
いや、勤務時間には姿を見かけることの少ない、太宰治がいる分。
普段よりも、人数は多いと言えるだろう。
その太宰が、率先して口を開く。
「さて、夕食にどこか行きたい店はあるかい、敦くん」
「え、僕ですか?」
「いいや、君ではなく、君の腹の虫に聞いているのだよ」
「あ、そうですか。あはは……。でも、僕はどこでも……、ご飯が食べられるなら、どこでも嬉しいです」
遠慮ではなく、本心を告げただけの敦に。
鏡花が、じっと視線を向けた。
何かを言いたげな瞳で、敦を見上げる。
すると敦は、鏡花の視線の意図に気づいたようで、
「そういえば……。この前、仕事中に鏡花ちゃんと駅前を歩いていて、素敵な店を見つけたんです。僕たち二人で、思わず足を止めて、見入ってしまって……」
とっさに国木田が、
「駅前だと!? まさか、蕎麦処じゃないだろうな!?」と慌てるが。
「いえ、違います。僕と鏡花ちゃんが見たのは、蕎麦処の、隣のお店です。外観は欧風で……、明るい店内に、たくさんのお客さんがいました。特に……、家族連れが、たくさん。みんな笑顔で、楽しそうに食事をして……」
谷崎が記憶している、駅前の蕎麦処の、隣の店を。
谷崎より先に、レイヤが口に出した。
「敦さん、それって、ファミレスじゃないですか?」
「え? レイヤさん、今、何て?」
「ファミレス、です」
「……ふぁみれす?」
「確か、駅前のソバ屋さんの隣は、ファミレスでしたよね? どこにでもある、チェーン店の、ファミリーレストラン」
「ファミリー……、レストラン……」
「そうです。ファミリーレストラン。略して、ファミレス」
「そっか……、ファミリーレストラン……。ファミレス……」
敦が、どこか、腑に落ちたような。
それでいて、物悲しそうな視線を漂わせ。
「あの店は、『家族のレストラン』だったんですね。それで、あんなにいっぱいの家族連れが、幸せそうな顔で、ご飯を食べて…………」
そう言ってから、目を伏せて。
小さな声で続けた。
「じゃあ、僕が行くことは、できないですね」、と。
6人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
カナコ(プロフ) - ライさん» ありがとうございます!!!!こんなコメントいただけて、嬉しくて涙出ました。愛読してくれる方に楽しんでもらえるよう、マイペースながらも頑張りたいと思います! (2019年6月6日 21時) (レス) id: 596e7dae07 (このIDを非表示/違反報告)
ライ - 好き!!!!!もう、本当、そーゆーところ大好きです!愛読し続けます (2019年6月5日 13時) (レス) id: c9f19c4ce0 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:カナコ | 作成日時:2019年6月5日 11時