国木田のファミレス(２) ページ22
「……頼まれたからだ」
国木田が、中指でクイッと眼鏡を直した。
「レイヤが入社して、俺からの新人研修を終えた後……、引き続き、レイヤに仕事の手ほどきをして欲しいと頼まれたんだ。……社長秘書に」
口を挟まずにいておこうと、思っていたのだが。
谷崎は、つい、「え？」と声を上げてしまった。
そして、脳裏に。
春野綺羅子の顔が浮かんだ。
社長秘書であり、事務職の中心人物でもある、あの温和な笑顔が。
谷崎が会話に加わったことで。
国木田は太宰から距離を取るように、自分のデスクに移動して。
帰り支度を始めながら、
「覚えているか？ 冬も終わる頃だ。事務職が三人も立て続けに退職し、業務に支障が出ていた時期があったな」
「あ、ああ、そうでしたね」
もちろん、谷崎も覚えている。思い出した。
欠員で事務職が回らなくなり、谷崎と国木田が、だいぶ事務仕事の肩代わりをした時期があった。
国木田は眉をひそめ、
「当時、求人を出せども、反応はなく。やっと面接に来たかと思えば、業務内容を知って辞退され。待てど暮らせど、事務員の補充が出来ない時期が続いた」
武装探偵社は、この世のあらゆる職種からも逸脱した、特殊中の特殊な職業と言っていい。
故に、なかなか人材が定着しない。
求職者の方から辞退されるのは、もちろんのこと。
入社一日目で「一身上の都合」による退職届を出す者もいた。
すると太宰も、
「そう言えば、そうだったねえ……」と、当時を懐かしむ。
「私も覚えているよ。あの頃の探偵社は、まさに猫の手も借りたい状況だった。まさか本当に、迷子の子ネコちゃんがやって来るとは、夢にも思わなかったけれど、ねえ？」
ニコニコと笑いながら。
両手を丸めて、「にゃんにゃん」と猫の真似をする太宰。
そんな相棒の顔を見ようともせず、国木田は谷崎に、
「春を迎える頃、やっと一人……、レイヤの採用が決まったからと言って、事務職が円滑に遂行できる訳もない」
「はあ……」
「そこで、社長秘書から申し出があった。事務職が忙しい分、新人事務員の教育をやってもらいたい、と。『レイヤちゃんのことは、国木田さんに一任します』とな」
「そうだったんですか……」
谷崎は、曖昧に頷いた。
国木田のそれは、もっともらしい理由に聞こえたけれど。
どこか、腑に落ちない。
いくら忙しいとは言え。
自分の部下にもなる新人事務員に、仕事を教えることを。
他人に丸投げするだろうか？
……あの、春野綺羅子が。
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カナコ(プロフ) - ﾗｲさん» ありがとうございます！！！！こんなコメントいただけて、嬉しくて涙出ました。愛読してくれる方に楽しんでもらえるよう、マイペースながらも頑張りたいと思います！ (2019年6月6日 21時) (
レス) id: 596e7dae07 (このIDを非表示/違反報告)
ﾗｲ - 好き！！！！！もう、本当、そーゆーところ大好きです！愛読し続けます (2019年6月5日 13時) (レス) id: c9f19c4ce0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：カナコ | 作成日時：2019年6月5日 11時
