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国木田のファミレス(1) ページ21

谷崎潤一郎は、驚いた。
驚いて、思わず聞いてしまった。

「あれ、国木田さん、どうしたんですか? レイヤさんに誘われて、社長と三人で夕飯を食べに行くんじゃなかったんですか?」

そう、多忙を極めた、月締めの事務作業を手伝った国木田が。
事務員レイヤに、お礼の夕食に誘われ、社長室に赴いたというのに。

何やらフラフラとした足取りで。
顔面蒼白で、一人戻ってきたので。

谷崎潤一郎は、驚いて。
思わず聞いてしまった。

……のだが。

聞きながら、すぐに察した。

国木田が向かった先の、社長室で。
男二人に、女が一人。

いびつな、見るに耐えない、哀れな三角形を形成する、その空間で。
一体どんな悲劇が起きたのか……、察した。

察したので。
もうこれ以上は何も聞かずにおこう、と思ったのだが。

「くっにきっだくぅーん!」

再び、驚いた。

皆が締めの業務に忙しい時は、姿をくらましていたというのに。
今ここに、突然現れた、太宰治に驚いた。

「あははは! 国木田くん、撃沈だねえ!」

実に嬉しそうな表情で、国木田の肩をバンバンと叩きながら、

「大体、微塵でも残っていると思ったのかい? あの二人の間に? 国木田くんが付け入る隙が?」

谷崎には、とても口に出すことのできない、赤裸々な真実を。
淀みなく語る、太宰治。

この場にいるのが、谷崎の他は、国木田と太宰両名だったことが救いだ。
他のメンバーが聞いていたとしたら、どんな騒ぎになったことか。

「……おい、太宰」

国木田が、少しは顔色に生気を戻しつつ、言い返す。

「貴様が何を言わんとしているか、俺には全く分からんぞ。『付け入る隙』だと? 一体何のことだ」
「いや、だから国木田くんが、社長とレイヤちゃんの間に……」

「おい! 根拠のない言いがかりはよせ! 以前も告げたはずだ。俺は、ただ……」
「ただ?」

「ただ、社長に幸せになってもらいたい。それだけだ」
「ふうーん。では、どうして国木田くんは、レイヤちゃんの仕事の面倒を見てあげているんだい? それも、レイヤちゃんが入社した当初から、ずっとだ」

その太宰の問いに。
確かに、と、谷崎は思う。

本来は、事務職であるレイヤの仕事を。
小言交じりに、けれど、甲斐甲斐しくサポートしている国木田は。
あらぬ誤解を受けても、仕方のないように見える。

つまり。
絶対的な強さと存在感を誇る弊社の社長の、恋人に対し。
特別な感情を抱き、執拗に接近を試みているように……、見えなくもないのだ。

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カナコ(プロフ) - ライさん» ありがとうございます!!!!こんなコメントいただけて、嬉しくて涙出ました。愛読してくれる方に楽しんでもらえるよう、マイペースながらも頑張りたいと思います! (2019年6月6日 21時) (レス) id: 596e7dae07 (このIDを非表示/違反報告)
ライ - 好き!!!!!もう、本当、そーゆーところ大好きです!愛読し続けます (2019年6月5日 13時) (レス) id: c9f19c4ce0 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:カナコ | 作成日時:2019年6月5日 11時

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