蕎麦(3) ページ14
「あ、でも、もちろん今日じゃなくて、国木田さんには日を改めて、私がお礼にご飯とかお茶とか、誘ってもいいんですけど……」
……と言われれば。
口が裂けても「嫌だ」とは言えない。
いや、そもそも。
こんなことを断るほど、器は小さくない。……つもりだ。
諭吉はいつも通り、「うむ」と頷いて。
「良いぞ。そのような事情があるならば、尚更だ。国木田も呼べ」
ほっ、と。
レイヤが安堵の表情を見せた。
「ありがとうございます! じゃあ、国木田さん、呼んできますね!」
そして、すぐに社長室を出て。
廊下を走る、猫のような足音が、諭吉にも聞こえた。
気を遣い、相手を慮ることを忘れない、レイヤのことだ。
ああ見えて、色々と思案したのだろう。
「国木田さーん! お夕飯、一緒に食べに行きましょー!」
業務時間終了後の、静かな社内に。
かすかに、レイヤの声が響く。
「国木田さんに今日のお礼したいし……。あ、そこは大丈夫です。私がお願いすれば、結構なんでもオッケーしてくれるんですよ、社長って」
……ん?
「だから、ね、一緒に行きましょ、国木田さん! ……え? 給料日前で、おサイフ厳しい? そこは安心してください! 今夜は社長のおごりですから!」
……おい!
何やら、モヤモヤと。
諭吉の心中、穏やかではなかったが。
二人分の足音が、社長室に近づいてくるのを聞きながら。
諭吉は、思い直した。
これは、良い機会だ。
愛し合う恋人同士である、己とレイヤが。
どれ程、仲睦まじく夕食を共にしているかということを。
『恋敵になりかけた男、国木田独歩』に見せつける、良い機会だ。
そう思ったら。
圧倒的勝利の予感しかしない諭吉は。
自然と不敵な笑みを浮かべ。
その燃え上がる闘志が、諭吉の周りの空気に伝わって。
ビリリッ、と。
社長室の窓が震えた。
6人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
カナコ(プロフ) - ライさん» ありがとうございます!!!!こんなコメントいただけて、嬉しくて涙出ました。愛読してくれる方に楽しんでもらえるよう、マイペースながらも頑張りたいと思います! (2019年6月6日 21時) (レス) id: 596e7dae07 (このIDを非表示/違反報告)
ライ - 好き!!!!!もう、本当、そーゆーところ大好きです!愛読し続けます (2019年6月5日 13時) (レス) id: c9f19c4ce0 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:カナコ | 作成日時:2019年6月5日 11時