天使の鉄仮面 (ページ4)

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推し事とお仕事ページ4

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『阿部くん今日も絶好調だね！』

阿部「あはは、ありがとうございます！」

絶好調だな、確かに。

今日もふわふわの髪の毛。

見え隠れするお耳がかわいい。

あ、ペン持った。ちょ、もっとアップで、あ、カメラさん寄って寄ってもっと手元に。

あ～～寄らねえんだ。そうなんだ。

っておーーい。急に顔面アップやめんかい。

心臓いくつあっても足んないよ。

あ、正解した。さすが。あ、笑った。かわよ。

阿部「これは得意分野だったんで、頑張れました！」

あーーー…天使だな。

録画のテレビ番組が終了し、提供のCMが流れ始めて数分。

私は天を仰いだまま目を閉じて、先ほどまで見ていた推しの笑顔を頭に思い浮かべていた。

あ、だめだ、頬弛んじゃう。

だって可愛すぎたもん。いつものことだけど。

「今日も推しが天使でつらい…」

口をついて出た言葉は、小鳥が囀ずる清々しい朝には少し似合わないかな。

そんなことを考えながらコーヒーをすする、ある朝の話である。

～♪

ローテーブルに置いたスマホが震える。

時計を確認して通話ボタンを押した。

「もしもし？」

『霧島、おはよう。まもなく到着する』

「はーい向かいます」

『ん。じゃあな』

相変わらず味気ない電話だな。マジでただの業務連絡。

ま、これが楽でいいんだけど。

コーヒーを飲み干したカップだけ軽くすすいでから、鞄を手に取る。

玄関の姿見で全身チェック。

鏡の中の自分の服装は、春先の格好にしては無難だと思う。

イヤリングの位置を整えてから、マスクにサングラス、キャップをかぶれば。

女優霧島Aの出来上がりである。

「おはようございます」

「おはよ。今日も化粧バッチリか？」

「バッチリです。ていうか毎回この会話いります？」

「体調確認みたいなもんだろ。お前も毎回その質問すんなよ」

「体調確認みたいなもんですね」

「…前から思ってたんだけど、お前俺のこと好きだろ？」

「前向いてくださいうるさい」

「おいうるさいっつったな」

「うるさい」

これが、私と彼の毎日の始まりだ。

本当にくだらない。

現場に到着して、お色直しよろしく衣装に着替えて、さあ、お仕事。

『霧島さん入られまーす！！』

「おはようございます！」

明るく朗らかな笑顔で皆さんへご挨拶。

かれこれ10年ほど経験して思う。

仮面って、本当に大事だ。

／推し事だけして生きてたい