私とジョンデ ページ29
「貧血かなにかですか？」
「そうなんです。
たま〜になんですけど。」
「点滴とかされて行きますか？」
「いえ、大丈夫だと思います。
少し横になれば良くなりますから。」
頭の上で交わされる会話に心が追いつかない。
目を開けるのが怖い。
「歩ける？」
声を出さなきゃと思うけど出ない。
時間をかけて、なんとか頷いた。
看護師さんが何か言って
すぐに足音が遠ざかる。
まだ顔も見れない。
「来れたんだね。」
私を散々甘やかした声がする。
「俺はもう来ないから安心して。
びっくりさせて、ごめん。」
言いたいことはたくさんあるのに
何も出てこない。
大好きだった顔さえ見れない。
「車だから送ってくよ。
立てる？」
俯いたまま、もう一度頷いて支えられながら
ゆっくり立ち上がった。
「嫌ならタクシーも止まってるし。」
「………………嫌とかじゃなくて、、」
「じゃあ行こう。」
「…さっきの、」
「ん？」
「貧血とかなんとかって、」
「ああ、口から出まかせ。
でもA、目眩？はしょっちゅうだったじゃん。ご飯抜くと。」
ジョンデがくっくっと喉を鳴らす。
少しだけ緊張が解ける。
どうぞ、とドアを開けられて乗り込むと
初めて抱きしめられた時の匂いを思い出した。
私の匂いってジョンデの匂いだったのかな。
そう思ったらやっぱり悲しくて口を閉ざした。
「弟くん、元気？」
「…うん、元気だよ。」
「あの人は？」
「………………」
「ごめん、いじわるだったね。」
「…ううん。」
「思ったんだけど、
あの人も受け身だし、Aも受け身だし、
色んなことっていうか…主に俺のこと考えて
先に進まなそうだね…ってさっきから答えにくいことしか話してないね、俺。」
でもそれ以外だと昔話になっちゃってアレだし
って、笑ってる。
「ちゃんと会ってんの？」
「…あんまり、」
「会いなよ。
俺に気遣ってんだったら。」
違うよ。
そうじゃないよ。
そんなこと言えるわけない。
「家の前までじゃなくていいよ。」
「…わかった。」
苦しかった。
ジョンデもたぶん、それをわかってくれた。
「これでほんとに最後だから。
心臓に悪いドライブだったね。」
いつもこんな風に甘やかした言い方をする時は
必ず、あったかくてゴツゴツした手が頭を撫でた。
それもまた、昔話だ。
「A、」
「…………」
「自分の名前、好きでいてね。」
自分のことを好きでいてね、
優しくて甘い元恋人はそう言ってくれた気がした。
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万(プロフ) - 初めまして、万です。素敵な作品でした。普段コメントを書くのが苦手ですが思わず書きたいほどに！表現が素敵で一種の小説本のようでした。これからも頑張って下さい。 (2019年5月8日 18時) (
レス) id: cc237cd121 (このIDを非表示/違反報告)
すず(プロフ) - まーさん» まーさん、いつもありがとうございます^ ^ 苦戦しながらも頑張って書いた甲斐がありました…本当にどうもありがとうございます！とても嬉しいです^ ^ (2017年7月30日 21時) (レス) id: b8bc3155f8 (このIDを非表示/違反報告)
まー(プロフ) - とても素敵なお話で、胸が熱くなりました。 (2017年7月30日 14時) (レス) id: e8aee3f1a0 (このIDを非表示/違反報告)
すず(プロフ) - ﾙｲさん» ルイさん、ありがとうございます。ルイさんの綺麗な言葉でこの作品の価値があがるようです…本当にありがとうございます^ ^ 頑張って書いていてよかったなあと報われました^ ^ (2017年7月23日 9時) (レス) id: b8bc3155f8 (このIDを非表示/違反報告)
ﾙｲ(プロフ) - 完結から大分経ちますが、何度も読み返しては泣いてしまいます。先生の想い出から解き放たれたヒロインは優しい恋人と幸せになれると信じています。きちんとさよなら出来なかったあの夏の呪縛。先生の幸せをひたすら祈ります。すずさんの他作品も本当に大好きです。 (2017年7月23日 3時) (レス) id: f4632540c2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：すず
| 作成日時：2016年10月22日 2時
