ミンソクと現実 ページ24
街の灯りから遠ざかると
車内の静けさが際立った。
半ば強引に小さくて冷えた手を
自分の上着のポケットに突っ込ませて
信号で止まる度に横顔を盗み見た。
風の音はBGMになって
Aの涙を一層冷たくした。
「この先、」
「ん？」
「この先におばあちゃんのお墓があって、」
「うん。」
「あって、ってそれだけなんですけど…」
うわ言みたいに話し出したAは
言葉に詰まって、それから選ぶようにゆっくりと続けた。
「…おばあちゃん、私のことすごく可愛がってくれて、いつも味方して守ってくれたんですけど…最後はボケちゃって…現実逃避するみたいに…その頃家の中はもうぐちゃぐちゃだったから。」
「そっかそっか。」
「いつもこっちの方来るとどうしても
おばあちゃんのこと思い出しちゃって…」
「じゃあ、今度明るい時に来なくちゃね。」
「え？」
「挨拶しなくちゃ。
初めまして、キムミンソクです、って。」
なんて返そうか迷っているAを助けるように信号が変わって会話が途切れた。
また少し走ると海が見えた。
「停めてちょっと降りてみる？」
夜の暗さに心細くなる気持ちは
Aも同じようだった。
どちらともなく肩を寄せてお互いの体温を
奪い合うようにくっついて歩いた。
「やっぱ夜は寒いね。」
「はい。
夜は寒いです。」
「なんで同じこと言ったの？笑」
「…え？笑」
笑って仲良く肩を揺らして
揃って白い息を吐き出した。
車から降りたことを後悔するぐらい寒いのに
いつまででもここに居たかった。
二人で居たかった。
「送ってく。
ごめん、付き合わせて。」
冷たくなった手をとって自分の手ごと
ポケットに突っ込む。
Aは何も言わない。
言わないけど、包んだ手が握り返されることもない。
だけど動じることもなかった。
変に落ち着いて、そして開き直っていた。
やっぱり好きだと、静かに再認識していた。
Aを送り届けて
名残惜しくて言葉も見つからなかった。
困ったように ”おやすみなさい” と言われて
無性に寂しくなった。
寂しくてまた抱きしめていた。
ほんとはずっとこうしたくて、
こうしてずっと過ごしたかった。
「ごめん、少しだけ。」
さよならしようって言ったのに
おやすみすら出来ないなんて。
想像していたより遥かに深い想いに
途方に暮れるしかなかった。
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万(プロフ) - 初めまして、万です。素敵な作品でした。普段コメントを書くのが苦手ですが思わず書きたいほどに！表現が素敵で一種の小説本のようでした。これからも頑張って下さい。 (2019年5月8日 18時) (
レス) id: cc237cd121 (このIDを非表示/違反報告)
すず(プロフ) - まーさん» まーさん、いつもありがとうございます^ ^ 苦戦しながらも頑張って書いた甲斐がありました…本当にどうもありがとうございます！とても嬉しいです^ ^ (2017年7月30日 21時) (レス) id: b8bc3155f8 (このIDを非表示/違反報告)
まー(プロフ) - とても素敵なお話で、胸が熱くなりました。 (2017年7月30日 14時) (レス) id: e8aee3f1a0 (このIDを非表示/違反報告)
すず(プロフ) - ﾙｲさん» ルイさん、ありがとうございます。ルイさんの綺麗な言葉でこの作品の価値があがるようです…本当にありがとうございます^ ^ 頑張って書いていてよかったなあと報われました^ ^ (2017年7月23日 9時) (レス) id: b8bc3155f8 (このIDを非表示/違反報告)
ﾙｲ(プロフ) - 完結から大分経ちますが、何度も読み返しては泣いてしまいます。先生の想い出から解き放たれたヒロインは優しい恋人と幸せになれると信じています。きちんとさよなら出来なかったあの夏の呪縛。先生の幸せをひたすら祈ります。すずさんの他作品も本当に大好きです。 (2017年7月23日 3時) (レス) id: f4632540c2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：すず
| 作成日時：2016年10月22日 2時
