夏を向いて歩いた ページ50
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散歩に出たい、と智くんが言った。
夏の夜のことである。
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智「夜しか出らんないね」
ぬるい風が、申し訳程度に吹いていて
闇に溶けそうな智くんの 深い茶色の髪を揺らした。
翔「ありえないくらい暑いもんね」
智「なんであんな暑いの？」
翔「温暖化だよねえ」
智「サウナみたいだったもん今日」
翔「あなた今日休みだったんでしょ？出たの？」
智「ベランダ」
翔「ふ(笑)出たって言わないの、それは」
智「出たもん」
ゴムの軽いサンダルが、ぎゅ、ぎゅ、とコンクリートを踏む。
智くんが、どこかのお土産で買ってきてくれたものだ。
安物なので、長い時間履いていると、いろんなところが痛くなる。
でも智くんは、色違いで買ったらしい自分のソレを、いつも嬉々として履いている。
智「ずっとテレビ見てた」
翔「珍しいじゃん、なんの？」
智「昼のー、なんか、ワイドショーで」
翔「うん」
智「SNSは怖いってゆう」
翔「あー…」
智「ずっとそれやってたから」
終電が過ぎたあとの踏切が、鳴る気配もなく黙っていた。
智くんはときどき立ち止まって、疲れた足をプラプラと揺らした。
安いサンダルが、足の裏をぱこぱこと叩く。それを聴いて、幸せそうに笑む。
智くんの幸せは、安上がりである。
例えば、夏の深夜の散歩だけ。
サンダルを踏む感触と、あまり見えない星と、月と、それらを隠す雲。
たったそれだけ。
智「モロハの剣なんだって」
翔「あー、そうだね」
智「いいとこも悪いとこもあるってことでしょ？」
翔「そうだね」
智「モロハ？」
翔「諸刃。両方に刃がついてるってこと」
智「ふぅん」
風で、雲が進んでいく。
夜空が、ぬるく、見え隠れしている。
智くんは、上を向いて歩いていた。
今日は、あまりこっちを見ない。
智「…つかれた」
横顔が、良いなと思う。
彼のほうから視線を寄越してくることが多いが、それよりも
この人がどこか別の方向を向いているのを 見るほうが、良い、と思う。
翔「帰る？」
ハッキリ言えないけど
同じものを見ていたいのだと思う。
智「うん」
智くんが距離を詰めすぎるせいで、触れ合った指先の
思わぬ冷感に、ドキリとして
伸びをするフリで、それが絡まることから逃げた。
視界の端で、ひとつぼっちになった智くんの、綺麗な手が
ぎゅっと丸まるのを見た。
同じものを見ていたい。
ただ、それだけ。
Fin.→パート3準備中
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きんにく(プロフ) - mioさん» mioさん〜！いつもありがとうございます♪ああ、、恐縮の恐縮です。縮みすぎて消えそうです。mioさんのようにお話を汲み取ってくれる方がいて本当に嬉しいです！わたしのほうが勉強させてもらってます！ (2020年8月16日 11時) (
レス) id: 9b7dd5397c (このIDを非表示/違反報告)
mio(プロフ) - キュンキュンしました(^^)勝手にすみません（汗）。瑞々しい言葉の数々、勉強させていただいております。パート3もご準備されてるとのこと、とっても楽しみに待っております^_^また読みに行かせてくださいm(_ _)m (2020年8月14日 12時) (レス) id: 075ae85cbe (このIDを非表示/違反報告)
mio(プロフ) - きんにくさん、素敵なお話の数々を読ませて頂いてありがとうございます。安上がりな幸せは、隣にはしょうくんがいるからで、さとしくんにとっては超高級品、なのかもしれなくて、そしてそれに気づきそうで気付きたくないしょうくん、みたいなふたりの有り様に、 (2020年8月14日 12時) (レス) id: 075ae85cbe (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - むぎポンさん» むぎポンさん〜いつもありがとうございます♪おおお〜そんな風にリアクションいただけて光栄でしかありません、わたしもニヤニヤしながら書いてました（笑）自分的萌をお届けできるようがんばります♪ (2020年7月28日 12時) (レス) id: 33256d226c (このIDを非表示/違反報告)
むぎポン(プロフ) - きんにくさん 私 ホントに このお話好きです。電話でメモを読ませるやりとり 微笑ましくて笑っちゃって〜。でも 寂しいと聞いた後の大野くんの表情で 泣きそうになりましたよ。いつも やられます(笑) 本当に素敵！大好きです！ (2020年7月26日 1時) (レス) id: 91c89dfc77 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：きんにく
| 作成日時：2020年7月9日 0時
