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『アンネの日記』の残りの50ページ余りを2日掛かって読み終えた智くんは、とくに俺に感想を述べるでもなく、自室に引っ込んで
2ヶ月ほどかけて、大きなキャンバスに絵を描いた。
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智くんの絵の描き方というのは2種類あって、その2種類というのは
イヤホンをして音楽を聴きながらゆったりと描くやりかた(俺の好きなほう)と
もうその絵を描き終えたら死ぬんじゃないかというくらい没頭するやりかた(俺の嫌いなほう)である。
なんだか嫌な予感がしていたが、案の定
今回は後者なのである。
だから俺は2ヶ月間、智くんの邪魔にならない程度に、朝と晩に部屋を(そうっと)覗いて、生存確認したり
冷蔵庫の食料が減っているかどうかや、ゴミ箱に食品のゴミが入っているかどうかなどを随時調べて、生存確認したり
ときには、彼の耳の真横でパアンと手を叩いて、俺の存在に気付かせ、ちゃんと眠っているか確認して、たいてい首を縦に振るがウソなので強制居眠りをさせて、生存させたりしなければならなかった。
とはいえ、智くんも人間なので
過保護に世話を焼く同居人の努力があるとはいえ、2ヶ月間、寝食を忘却した状態で過ごせるはずもなく、
身体が不調を訴え始めた頃に、半べそをかきながら俺の姿を探す、という出来事が3回ほどあった。
そしてそういうとき、だいたい俺の方はというと、智くんに無視されすぎて
やけっぱちになっていた。
智「翔くん、なんか耳が…ザーザー言う」
翔「過労です！脳貧血です！倒れる寸前なんだよ分かる！？」
智「え、な……なんでそんな怒って…」
翔「気付かなかったかもしれないけどね俺はもうずーーーーっとこんな感じで話しかけてるよ！智くんは全ッッッ然気付かなかったと思うけどね！」
智「……う」
翔「さあ！これを飲んで眠れ！」
智「これなに？」
翔「ぼくの憎しみを凝縮したただの糖の錠剤ですよ！」
智「にく……永遠に眠らされるとかないよね？」
翔「このまま馬鹿みたいに描き続けたらそうなるかもね！」
智「怒んないでよ……もう…飲んで寝るんでしょ、分かったよ」
『アンネの日記』を含む14冊の本を、俺はひとりで図書館に返しに行った。
その絵が完成したのは、7月のまんなか、もうそれほど涼しくもない、夏の夜のことだった。
遅くに帰宅すると、智くんの部屋のドアがひろびろと解放されていて
その部屋の真ん中に、絵はあった。
涙が出そうなくらい柔らかな淡い色調で、女の子がひとり、描かれていた。
そしてキャンバスの隅っこに、ぐしゃっとした英字で『Anne』と書いてあった。アンネ。
23時。
智くんは、家のどこにも居なかった。
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きんにく(プロフ) - 那智さん» 那智さん！わ〜〜、架空の映画です(笑)架空すぎて好き勝手に酷評しすぎました。えへへ。呑気な話ですが覗いてくれて嬉しかったです。ありがとうございます！♩ (6月10日 13時) (
レス) id: ed3941cf39 (このIDを非表示/違反報告)
那智(プロフ) - 『エリーとスミスが甘いので』を見たくなって検索してみた。そんなに酷い映画に何故泣ける？って思って。そんで、くだんねーって言いたかったなー。でも好き。 (6月10日 9時) (レス) @page41 id: f47ac2cfea (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - きよさん» きよさん！ありがとうございます。智くんが珍しく本を読んでるハナシを書きたいなぁと思ったらこんな大事になってしまいました😂ここのふたりは優しくて私も好きです。これからものんびり続けていくので飽きるまでどうか宜しくお願いします♩ (5月21日 14時) (レス) id: 7cf4abab0d (このIDを非表示/違反報告)
きよ(プロフ) - きんにくさん、お話しありがとうございます。感受性の豊かな智くんには辛い本ですよね。その本心をよみまちがえたと悔やむ翔くん。翔くんの機嫌を治そうと辛い本の話題をしようとする智くん。やっぱり素敵な二人だなと改めて思いました。これからも楽しみにしています。 (5月17日 18時) (レス) @page39 id: dcaa28dbe3 (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - oneidnekdndojejさん» えー！わーおもしろかったですか！？ヤッターーありがとうございます！とても嬉しいです🤩拙いお話ですが楽しんでいただけて光栄です。いつもあたたかいお言葉に勇気づけられて書き続ける原動力になってます。こちらこそありがとうございます！ (5月14日 13時) (レス) id: 7cf4abab0d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：きんにく
| 作成日時：2021年12月31日 10時
