芸術至上主義 ページ19
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翔〈ん？どうした？〉
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翔くんの声は、燃え盛る炎を一瞬で沈めてしまう水みたいな役割を果たした。
翔〈智くん？〉
智「……」
直前まで喉が焼けるようなくらいに張り詰めていた気持ちは、翔くんの、力の入っていない声にすっかり鎮火されてしまって
身体の中にこんなにも空気が詰まっていたのかというくらい、大きな大きなため息の塊を、ふっと吐き出した後は
なんにも言えずに、ただ黙って翔くんの「どうしたの」を、5回くらい、ほったらかしにした。
翔〈おーい〉
智「……ん」
翔〈あー、やっと返事した〉
しゅしゅしゅ、と服が擦れる音と、ビニール傘に雨粒がぶつかる音が、混ざって変なノイズみたいになっていた。
翔くんは外を歩いているみたいだ。
ときどき、ンン、と喉を鳴らした。
それが、苛立ちを抑えるときの澤井さんの咳払いに似ていて、嫌な気分になる。
よく考えてみたら、会話中、口から出す文章のほとんどを理路整然とさせる澤井さんと
口から出す文章のほとんどが どこか理知的な翔くんは、似ているところがあるのかもしれない。
もっとよく考えてみたら、澤井さんはいつも、翔くんが持って行くみたいな、大きいカバンを提げて仕事に来ている気がする。
翔〈なにしてたの？〉
智「…べつに」
翔〈べつに？〉
智「……なんも」
翔〈怒ってたの？珍しいね〉
智「… …、」
翔〈んー？〉
智「……怒ってない…別に…」
くすりと、翔くんが安心したように笑って、今度は俺を安心させるみたいに、どんどん声がやさしくなっていった。
翔〈午前中で仕事終わっちゃった。会議がなくなってさ〉
智「…そ」
翔〈もう家の近くに居るんだよ。なんか買うものある？〉
智「ない」
翔〈そう？じゃあもうすぐ着くよ。患者さんに貰ったいちご大福もあるよ〉
ぶっきらぼうに返事をするたびに、翔くんは電話口でくふふと笑った。
しかたないなあ、というふうに。
翔くんは、たまに俺がこうやって、仕事のことでむしゃくしゃするとき
出来過ぎなくらいに優しくなる。
智「……ふぅん」
翔〈一緒に食べようね。帰ったら〉
親が子どもにするみたいに
宥めすかされているような気がしないでもないけど
俺はその、甘すぎるやさしさを
乾いた心に従って、余すことなく飲み込んでしまいたくなる。
飲み尽くしてしまいたくなる。
いつも。
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きんにく(プロフ) - 山田さん» (続き)気を遣わせてゴメンナサイ。これからも楽しく読んで頂けたらと思います。いつも本当にありがとうございます。ピアニッシモにくださったコメントから、ずっと元気づけられてます。 (2021年10月5日 23時) (
レス) id: 39aa1ff197 (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - 山田さん» (続き)書くこと自体は、私にとってとても楽しいことなのです。長く書き続けられたらいいなあとは、心の奥底で思っています(笑)それに、このような言葉を頂くと、なんにも気にせず長く書いていようかなあと思います。単純なのです。とにかくありがとうございますと、 (2021年10月5日 23時) (レス) id: 39aa1ff197 (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - 山田さん» 山田さん、わざわざこちらにすみません！あっちのコメ欄が開いてなかったからでしょうか（汗）しかもネガティブなことを言って心配させたようで、重ね重ねすみません。それと、嬉しいお言葉ありがとうございます。しばらくは書き続けます！ (2021年10月5日 23時) (レス) id: 39aa1ff197 (このIDを非表示/違反報告)
山田(プロフ) - きんにくさんの無理のないお気持ちで、きんにくさんの思う彼らをもし拝見することができたならとても嬉しいです。乱文申し訳ございません。ずっと大好きです。 (2021年10月4日 13時) (レス) id: 7341d1decc (このIDを非表示/違反報告)
山田(プロフ) - きんにくさん コメントこちらにて失礼します。きんにくさんの書かれる作品が大好きで、休止した後も何度も寂しさを救ってもらいました。色々と環境が変わる中で簡単に続けてくださいなどと言える立場ではないですが、 (2021年10月4日 13時) (レス) id: 7341d1decc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：きんにく
| 作成日時：2021年3月3日 23時
