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ゆっくりと、制服が動く。ほんの小さな呼吸に合わせて、慎重に。こんな時もこちらを見やる小百合の顔は、化け物みたいに血にまみれていて、こんなにも可愛くてみじめで。
小百合は死んでも救われないのだと、馬鹿を思ってしまった。
はぐはぐと金魚みたいに動く口は、ダイイング・メッセージみたいに思えた。私はそれの答えに、分からないフリの蓋をして。
気が付けば私は煩いくらいの静寂に襲われていた。
小百合の呼吸は既に止まっていた。スマホの電源は落ちていた。カーテンからは透けた朝日が輝いていた。
涙は、流していなかった。
小百合の死は受け入れられるものであって、信じ難い出来事という訳ではなかった。嘘だと否定していた暗闇全てが嘘のように、私は理解していた。
理解していた割に私には死んだ小百合に哀悼の意を込められる程の余裕はなく、愚かに狡いと妬んでいた。
生に執着せず、簡単に死ねる小百合が。自ら意識のトぶような痛さに突っ込んで逝ける度胸が。それらに嫉妬して、カラカラに渇いた口を開いて「死ねばいいのに」と一人の呟き、そうか死んだのかとヘラヘラ笑った。
ニュースを見た気分だ。だって全部、所詮は他人事である。小百合が死んだからと言って、私に直接何か因果があるわけでもないだろう。生も死も、私じゃなければ関係ないんだ。
そうだ。だから一日の始まりは何も変わらない。私が小百合の死を伝えなければ私の今日は何も変わらない。小百合がいない一日になるだけ。ただ、それだけ。
朝ごはんは喉を通った。味もした。美味しかった。シャワーは勿論浴びた。お湯が冷たい訳がなかった。気持ちよかった。庭の花壇に水をあげた。二つも芽が出ていた。嬉しかった。行ってきますと家から出た。やっぱり返事はなかった。少し寂しかった。近所のおばさんに挨拶された。私も笑顔で返した。いつも通りだった。
そういうものなんだ。そう思いながらスニーカーで他人と共にアスファルトを踏みしめる。
小百合の死は私に何か変化をもたらす訳ではなく、その時の少しのショックと、永遠に忘れられない無価値な映像と、小百合と死にたい自 殺欲を植え付けただけであって、私の毎日から何か大事なものが欠けたとか、そんなことはなかったんだ。
私にとっての小百合という一つの命は、尊くなかったんだ。七十億からマイナス一。きっとそれだけなんだと。
餡子猫が私の脚に絡み付いた。
横断歩道の真ん中、私は蛸になる。
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与田 茜(プロフ) - マナさん» 文章ですか、今見返すとかなり荒削りな文章ですから、なんだか恥ずかしい気もしますが……ここは潔くお褒めの言葉を受け取らせていただきますね(笑)羨ましいとも面白いとも、言われるだけで天狗になってしまいそうです……！！閲覧にコメント、ありがとうございました！ (2019年7月29日 21時) (
レス) id: 35915b1fe0 (このIDを非表示/違反報告)
マナ - とても面白かったです！文章も上手だし、本当に羨ましいです笑 (2019年7月29日 14時) (レス) id: 6780f1cbe2 (このIDを非表示/違反報告)
与田 茜(プロフ) - バンビーさん» いやいやそんな、私には面白いの一言だけでも十分なのです……(確かにもっと沢山の人に見てもらいたい気もしますけれど、傲慢と言われそうなので心の中に秘めておくことにします)閲覧にコメント、ありがとうございました！ (2019年7月16日 23時) (レス) id: 35915b1fe0 (このIDを非表示/違反報告)
バンビー - もっと評価されるべき作品な気がします！とても面白かったです！ (2019年7月16日 22時) (レス) id: ff85299768 (このIDを非表示/違反報告)
与田 茜(プロフ) - ここ。さん» 語彙力たっぷりに褒めちぎって頂けて、感激の極みでごさいます！結ばれずに終了、だけでは小百合も可哀想ですので、それとなく幸せを醸し出したのがいい方向に転がってくれて良かったと一安心です(笑)次回作にも力が入ります！閲覧にコメント、ありがとうございました！ (2019年7月16日 14時) (レス) id: 35915b1fe0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：与田 茜 | 作成日時：2019年7月4日 6時
