【d!】世界を拒絶する前のいくつかの約束【syp】 (ページ5)

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「……なに調べてるん？」

　端末を操る姉さんに問う。

　はじめは覚束なかったタイピングも、すっかり慣れたようだった。たったの２週間前までは、俺があの端末をいじって、姉さんの知りたいことを姉さんに伝えていたのに。
　今や、排熱によって局所的な熱しか持たない、冷たい機械のカタマリが姉さんの手に触れていた。

「進路のことだよ」

「その大学、飛行機レベルで遠いやん」

「ひとりぐらしなんて許さないって？お父さんより先にショッピに言われちゃったね」

　くすくすと、姉さんが笑った。
　最近の姉さんは、よく笑う。なんだか楽しそうに、はつらつと未来を語る。

　今までの姉さんは、どこか根源的に諦めていた(、、、、、)。
　どうせ見えない自分にできることは限られているからと、せめてなるべく迷惑をかけないようにだけ生きようと。そんな調子で。
　こんなふうに、進学先について明るく話すことはなかった。

　それを素直に喜べない自分が、どこか苛立ちすら覚える自分が、厭だった。

「大都市だとDiVARに“接続”してる人数が多いから、“混線”するって聞いたで」

「人の視界が混じって見えるやつだっけ？たしかに怖いよね」

「ハッキングとかもあるんやろ？万が一見えなくなったときどうするん？すぐには駆けつけられんで？」

「うー……そうなったら詰むよね……」

　言葉ではそう言うが、姉さんの目線はしっかりとディスプレイの文字を追っていた。

　諦めたようなそぶりは、全然見えなかった。