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『あなたがお姉ちゃんを助けるのよ』
俺が存在を許されたのは、姉さんを助けるときだけだった。
姉さんは生まれつき視力に不自由があった。最初は多少見えたらしいが、だんだんと見えなくなり、俺が生まれた頃にはいわゆる全盲という状態だった。
対して俺は、健康優良児そのものだった。
だから、両親の注意が姉さんの方にばかり向いていたのは、この年になった今、仕方ないことだとも思える。
共働きで忙しい親にかわり、姉さんの面倒をみることがだんだん増えていった。登下校が一緒なことは当たり前、家で日常生活のあれこれに手を貸すのも当たり前。
姉さんの手助けをすると、両親は「本当に姉さん思いのいい弟ね」と誉めてくれた。次第に、姉さんの手助けをすることは俺の存在意義となった。
「ショッピの手は安心するね」
そう、姉さんはよく微笑んだ。心底俺を信頼した、無邪気で汚れを知らない笑みだった。
まさか、俺が自分の存在意義を確認するために姉さんを助けているなんて、考えてもいないような無垢な笑み。
姉さんは優しかった。一点の曇りもなく信頼を寄せてくれた。姉さんのできうる限り、全力で、弟の俺をかわいがってくれた。弟に面倒をみさせることへの負い目もあったのだと思う。
愛情に飢えていた俺が、姉さんに溺れるのに時間はかからなかった。
そうこうしていると、いつの間にか“手段”は“目的”に変容していた。
姉さんは、家族以外を頼ることにひどく臆病だ。ゆえに、友人関係は希薄。それに安心した。俺だけが頼られるから。
俺が姉さんを助ける。姉さんが笑って、愛してくれる。両親も俺を認めてくれる。俺は安心して、存在し続けることができる。そしてまた姉さんを助ける、姉さんが笑う――。
それは、ずっと、永遠に続くサイクル。途絶えることも、断絶することもない、完璧な円環。そう信じて疑わなかった。
――『
今日の弟
「姉さんどこ行くん？ もう帰る時間やで。ほら、手」
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作者名：よぞら | 作成日時：2023年11月15日 22時
