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「……俺、そっちの道には行きません」
「もったいないな。まあ、白紙の進路希望が許されるのは３年生になるまでだからな、よく考えるといい」
どうせ受験ギリギリになれば気が変わるとでも思っているのだろう。教師は別の話題にうつった。
雑談に近い母親との会話を右から左へと聞き流しながら、俺はただ終了時刻が来るのを待っていた。
「今までありがとうね」
帰り道、藪から棒に母親がそう言った。
「なにが？」
「Aのことよ。海外の大学だろうと、行きたいんなら行っていいのよ」
母親は、さも当然かのように言った。
それは、刑期を終えた囚人に対する釈放宣言のように聞こえた。
今までありがとう？ なんだそれは。なにかが終わったみたいな言い方じゃないか。
俺と姉さんのことで、なにか終わったことなんてない。なにも終わってなどいない。
その日の夕飯だった。
俺の三者面談の話題が出た。教師の褒め言葉に、父親はまんざらでもないようだった。一番嬉しそうにしていたのは、姉さんだった。
「すごいじゃん！」
興奮気味に姉さんは言った。手を叩いて、
あの帰り道から、姉さんは俺に気まずさを感じているようだった。それを打ち消そうとするように、どこかオーバーなくらいに喜んでいた。
「先生が大げさなんよ」
「いやいや、海外の大学に推薦って本当にすごいよ！ うちの学校で前例ないんじゃない？」
そう褒められると、悪い気はしない。ムカつく技術の発展に利用されそうとはいえ、姉さんからの誉め言葉は頭を、胸をふわふわとした気分にさせる。
心の奥にひっかかりを感じながらも、姉さんがすごいすごいと褒めてくれるのが嬉しくて、それを見ないようにしていた。
姉さんは無邪気に言葉を続ける。
「チャレンジしてみたら？」
その言葉を聞いて。
パリン、と。ガラスのようななにかが砕ける音がした。
今日の弟
「姉さんどこ行くん？ もう帰る時間やで。ほら、手」
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作者名：よぞら | 作成日時：2023年11月15日 22時
