【d!】元NPCはハッピーエンドを望まない

２ ページ5

「そんなこと言われたらプレッシャーに感じちゃうなぁ」

赤面するショッピくんに、こっちまで謎に照れてくる。自分の笑い声が完全にカラ元気である。

「生徒会なんてめんどくさいものを引き受けたんですから。めちゃいい先輩っすよ」
「そ、そうかな？ そういうショッピくんは？」
「こいつはコネシマさんに連れてこられたんですよ！」
「てかチーノ、クソ先輩にA先輩案内させんの不安しかないんやけど……俺ら尾けてく？」
「それ俺も考えててん」

生徒会室にいたときより少しだけ、ショッピくんの雰囲気がくだけたものになる。たぶん、チーノくんと二人きりなら、さらにフランクなやりとりが交わされるんだろう。二人の仲の良さがうかがえる。

「A先輩はどこから来たんですか？ めっちゃ都会で洗練されてる感じです！」

チーノくんが、まんまるメガネの奥から目をキラキラさせて見つめてきた。咲き誇るカレンデュラのような色彩に、一瞬クラっとなる。
あるはずのない犬耳と、ぶんぶん振られるしっぽを幻視してしまった。危ない。勘弁してほしい。

シリアスに考えたいことがあるのに、それどころではなくなってしまう。整いすぎた顔面の２人から、初対面らしからぬ好意を向けられると、心臓の鼓動が速まりっぱなしで思考に集中できない。
いけないいけない、質問に答えなきゃ。

「アストレアからだよ。このあたりとそう変わらないと思う」
「都会じゃないですか！ ええな〜旅行してみたいと思ってたんですよね。先輩今度案内してくださいよ！」
「いいけど、観光スポットそんなにないよ？」
「いやいや夜景で有名なとこあるじゃないですか！ ナントカ灯台っていう――」

チーノくんの問いに答えながら、また疑問が湧き出る。

……私はどこから来た？

いや、知識としては知っている。
私の出生地、育ってきた地域、家族構成、その他諸々。公的書類に個人情報として書くようなあれそれは、知っている。
でも、まるで他人のプロフィールをそらんじているみたいで、ちっとも自分のものだと思えない。

一体この感覚はなに？
誰か教えてほしい。でも、誰が？ 誰が答えられるというの――

「――わわっ！？」

ガクンッ、とずり落ちる視界。
一瞬の浮遊感のあと、体が意図しない変な方向に倒れていく。やたらと時間がゆっくりになった。抗えない重力に、階段をハデに踏み外したのだと気づいて――

〔例外処理を検出しました〕→←校舎案内　＞後輩組

今日の部活

豚をなでていたら書記長が「なでてる姿を見てるだけで癒されるわぁ」とニコニコしています。

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す