第百三十七話【砕け散りし海辺に】 ページ40
「待って」
何処からか声が聞こえた。私達はその声がした方向を見た。橋の上に誰かがいた。紅い着物に花の飾りを付けたお下げの少女......
「鏡花ちゃん......」
一体、どうして此処にいるんだ......
私は信じられないものを見たように体の動きを止めた。
「おや、君は確か......マフィアの構成員だな。報告書では行方不明とあったが?」
「違う。私の名は鏡花。探偵社員。宜しく」
鏡花が端的に答えた瞬間......
鏡花は素早くフィッツジェラルドの間合いまで詰めると、刃物を振った。
思わぬ襲撃にフィッツジェラルドが後ろへ下がった。遅れて、彼の首に紅い筋がついた。
「何という野蛮な国だ。こんな少女が刃の届く瞬間まで殺気もないとは......」
鏡花はフィッツジェラルドの様子気にする事もなく、私の目を見た。言葉を交わさぬ言葉の伝達。私はその意図を理解したように頷いた。
私は敦の身体を支えると、橋の欄干に足を掛けた。そして飛び上がると、橋の上から落ちた。橋の下には丁度、船舶が通過していた。私達はその屋根の上に足を付けた。背後へ振り向くとフィッツジェラルドが追ってくる様子は無かった。
「鏡花ちゃん......ありがとう。助けてくれて」
「Aさんが助けてくれた。私はその借りを返しただけ」
「そっか......それでもありがとう」
それから船舶が岸に近づいた時、私達は船舶から降りた。もしかしたら、まだ組合が追って来ているかもしれない為、私達は倉庫街の物陰に身を隠し、物陰から外の様子を伺っていた。
「鏡花ちゃん......随分探したんだよ。今まで何処に?」
敦が痛むお腹を庇いながら鏡花に訊いた。
「闇を彷徨っていた......」
鏡花はポツリポツリと口に出し始めた。
「裏路地や貧民街や......嘗て私の居た場所を。でも、其処はもう私の居場所じゃなかった。それより先ずは組合の対処。あれ」
鏡花は物陰からある方向を指差した。私と敦が物陰から覗くとその先には、一台のパトカーと二人の警官が居た。
「何処にも、爆発騒動なんて無いそうです。通報は悪戯ですね。全く」
「そうか......悪戯で何よりだ」
どうやら二人の警官は、通報により安全確認に来たようだった。
「偽の通報で市警を呼んでおいた。警察と一緒なら組合も気軽に手出し出来ない。来て」
鏡花が敦の手を引いた。
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トキハル(プロフ) - 長らくお待たせしましたm(_ _)m 更新始めていきます。 (2020年3月4日 15時) (レス) id: a4508594ec (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:トキハル | 作成日時:2020年3月4日 14時