第百三十六話【ウィル・オブ・タイクーン】 ページ39
(......!じゃない!)
振り返った目の前にいたのは太宰ではなかった。金髪に身なりの良い服に身を包む組合の団長......フィッツジェラルドが其処にいた。私達は驚きで狼狽えた。
「ありきたりな反応だな」
敦が咄嗟に腕も虎化させると、フィッツジェラルドに向かって拳を繰り出した。しかし、フィッツジェラルドは難なくその拳を受け止めた。
「これもつまらん」
虎化による瞬発力の強い拳を普通の人間が受け止められる筈が無い。しかし相手は生身の手で、易々と受け止めてみせた。
「部下の反対を押して、組合の団長自ら迎えに来たのだぞ?君達は俺を楽しませる義務がある筈だろう」
フィッツジェラルドは手に力を入れた。敦の体が力に押し負かされ後ろへ下がった。敦は攻撃を切り替え、フィッツジェラルドの顎を蹴り上げた。その攻撃にフィッツジェラルドは敦から手を離した。
「......今の蹴りは良いな。一万ドル程度の価値はある。だが......」
不意にフィッツジェラルドの足が動いた。私は不味いと思い、透かさず敦の首襟を背後に引っ張った。その直後、私達の身体が後方に吹き飛ばされ、背後のフェンスに体を打ち付けられた。
「ゲホッ......ゴホッ......」
(衝撃を減らしたのに......これだけの力を......)
横目で敦を見ると、直ぐには立ち上がれずに倒れていた。そして、フィッツジェラルドはゆっくり敦へと歩みを進めていた。私は直ぐに立ち上がり敦の前に出た。
「おや、君は確か......あいさ、あちた......」
「秋田」
「そうだ、それだ。探偵社員の......だが、君では私には勝てない。虎の少年を置いて、我々に引き渡して貰おうか?」
私は横目で敦を一瞥した。
「......敦君」
その声に敦が顔を上げた。
「......Aさん」
「もし、動けるなら直ぐに此処から離れて」
「で、でも」
私は敦に顔を向けた。
「ごめんね。こんな事しか出来ないから......」
敦は何かを言いたそうに口を開いたが声が出なかった。私はフィッツジェラルドに向き直った。
「それが君の答えか......なら」
フィッツジェラルドは拳に力を入れた。
その時......
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トキハル(プロフ) - 長らくお待たせしましたm(_ _)m 更新始めていきます。 (2020年3月4日 15時) (レス) id: a4508594ec (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:トキハル | 作成日時:2020年3月4日 14時