第百十一話【間違った選択】 ページ15
「これは?」
太宰が手渡された紙を見ながら訊いた。
「中を見てもらえれば分かります」
その言葉に太宰は紙に書かれている文字を読み始めた。
「これは......組合の異能力......」
「え!?Aさんどうやって、そんな情報を?」
敦が驚いた様子で私に訊いた。
「全貌では無いのでお役に立てるか分かりませんが、これらは私が彼等との戦いの中で集めた情報で......」
ガシッ......!
不意に太宰が私の両腕を掴んだ。私は驚いて太宰の顔を見た。その顔は何故か少し怒っている様に見えた。
「組合相手に一人で戦ったのかい?如何して逃なかった......」
太宰が先程よりも低い声で云った。
「それは......逃れませんでしたし......あの場では戦う事しか思いつきませんでした」
私は徐々に自分の言葉が小さくなっていくように感じた。
あの時は鏡花を何処まで逃せるか、どれだけ組合から情報を引き出させるか、そして負傷した仲間を置いては逃たくはなかった。仲間を置いて逃げるのは私の信条では無い。今思えば、その選択は間違っていなかったとはっきり言える。
それなのに、如何してこの人は怒っているのだろう。
私は怯えるように目を下に向けた。敦も私達のただらなぬ雰囲気に息を呑んだ。
誰も何も言わないまま時間だけが過ぎた。部屋に置いてある時計の秒針を刻む音がいつもより煩く聞こえた。
暫くして、太宰は小さく息を吐いた。
「兎に角、君が無事なら良かった。だけど、これからは一人だけで戦わない事。それは忘れないでくれたまえ」
「わ、わかりました。善処します......」
太宰が私に対して怒るのは初めてだった。今までもこんな事はなかった。私は自分の頭で考えて、正しい行動をしたつもりだったのに、私はその選択を間違えてしまったのだろうか。
「それと」
私が物思いにふけていると、太宰が口を開いた。
「Aちゃんが命をかけて集めてくれた情報......私に任せたまえ」
その声は何時もと同じ優しい声色だった。その声は不思議と私を安心させた。
「はい。如何かよろしくお願いします」
私は頭を下げた。
カサッ......
私の耳に布団が擦れる音が聞こえた。そうだ。私達の他に誰かが寝ていたのを思い出した。一体誰が寝ているのだろう。私は音がした寝台の方を見た。
「Aちゃんには言っていなかったね」
太宰も同じように寝台の方へと目を向けた。
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トキハル(プロフ) - 長らくお待たせしましたm(_ _)m 更新始めていきます。 (2020年3月4日 15時) (レス) id: a4508594ec (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:トキハル | 作成日時:2020年3月4日 14時