【小噺】「あなたは特別な人」* ページ49
二月十日。窓からカタカナの出発を見送ったゾムはほくほくとした様子で幹部棟の廊下を歩いていた。手には10cmほどの小箱が握られており、箱に巻かれた鮮やかな黄緑色のリボンは彼のインカムに埋め込まれている硝子玉を元にしているのだろう。遠征任務の準備に追われながらもキッチリと贈り物を配るあたりにカタカナの几帳面さが窺える。
ゾムは彼女が時間の合間を縫って届けてくれたことが余程嬉しかったのか、今にもバク宙しそうな勢いで自室に飛び込んだ。
彼は真っ先に箱を机に置き、目にも留まらぬ速さで手指の洗浄と消毒を済ませると、ほのかに石鹸の香りがするその白い手でリボンの端を摘んだ。シュルシュルと結びを解く音がゾムの意識を占領する。
「おおぉ…！」
中に入っていたのはクリーパー形の焼印が押されたマカロンだった。こぢんまりとしてて可愛らしい其れがどんな宝石よりも美しく、価値のある物に見えて、ゾムは思わず感嘆の声を上げる。
苺の甘酸っぱい香りがふわりと鼻腔をくすぐって、それだけでお腹ではない何処かが満たされた気がした。
昔、この軍に入ったばかりの頃に同僚であるひとらんらんから教えてもらった食事の挨拶を済ませ、小箱からマカロンを一つ取り出す。
少しでも力を入れれば崩れてしまいそうだと不安になりながら、ゾムは緊張と興奮で高鳴る胸を抑え慎重にソレを口元に運び、そして…食んだ。
「ん、まぁ…！」
翡翠の瞳を煌めかせ何度も「美味しい」という旨の言葉繰り返す姿はまるで子供のようだった。
じっくりと味わうように咀嚼を続ける彼は花畑に囲まれているような、陽気な雰囲気を醸し出している。
もしもこの場に一般兵が入れば、ゾムの姿を二度見三度見からの窓に向かってダイレクト投身をキメていたことだろう。
小箱に手を伸ばす。
痺れるような陶酔感に目を瞑る。指の先まで砂糖を吐きそうな程の甘さに包まれて、気が遠くなりそうだった。
彼女のお菓子作りの腕はオスマンに鍛え上げられたものだろう。お茶会前、開催場所である裏庭とは反対方向に位置する厨房へ態々寄って行く二人の姿を幾度か見た事があるゾムが、その事実に行く着くのは赤子の手を捻るより容易かった。
……自分が、何でもない日にお菓子を作って欲しいと頼んだら、彼女は作ってくれるだろうか。
そんな戯言から妄想しては、溢れ出そうな甘美な蜜にぶるりと背筋を震わせる。然し虚構で満足など出来るわけもなく、また、小箱に手を伸ばす。
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怜巫(プロフ) - まるさん» コメントありがとうございます。イマジナリーッペンは自分でもお気に入りの造語です(笑)。ご期待に添えられるようなお話かは分かりませんが、気長にお待ち頂ければ幸いです… (11月20日 15時) (
レス) id: 42dc5a7528 (このIDを非表示/違反報告)
まる(プロフ) - 今では珍しいパンゾンビ、P.6で出てきて懐かしすぎて久々に見に行ってしまいましたwイマジナリーッペンの語呂の良さ、微笑んでしまうようなやり取りetc…明日が一応更新日ということで、気長に楽しみに待っています！！ (11月18日 20時) (レス) @page33 id: dba6e6f19e (このIDを非表示/違反報告)
怜巫(プロフ) - ワカメさん» お褒めいただきありがとうございます！遅筆ですが頑張って続きを作成中ですのでこれからも本作品を何卒宜しくお願いします！ (10月3日 20時) (レス) id: 138669c149 (このIDを非表示/違反報告)
ワカメ - ものすごく面白いです！続き楽しみにしてます！ (10月3日 18時) (レス) @page22 id: 103dc78d5a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：怜巫 | 作成日時：2023年8月17日 5時
