◇ ページ29
「…ごめんな、寝とったやろ」
『イヤまあ、完全に寝てましたね、ハハ』
口を噤み思考に浸りかけた意識は、希の申し訳なさそうな言葉で一気に引き戻された。一本釣り漁師も吃驚の引張力である。
気を遣わせてしまったのか、と こういう時だけ優秀な頭脳は素早く彼の言葉を咀嚼して答を導き出した。歪みそうになる表情筋を気合いで持ち堪えさせる。普段の彼ならば私が寝起きだろうが課題中だろうが意にも介さないのだが、どうやらここ数日で精神的疲労が蓄積しているとバレていたらしい。世を越えてもその鋭い観察眼は失われていないのか。
『ヤ、でもあれやで？こんな時間に寝たら絶対夜寝れんくなるからさ、個人的には起こしてくれた事に関しては感謝しかないよ』
「！…んふ、それもそうか。ほらほら崇めるんだよぉ」
『え、崇めていいんですか？？』
真逆の本人からの申し出(？)に思わず本音が零れる。不味い、そう思った頃には既に遅く。
言い訳など無駄だと悟った私はただ彼の言葉を待ち続けた。
「…いや、やっぱええわ」
『ええんかい』
安堵の息をつく。これで肯定されたら、私はどんな顔をしたら良いか分からなくなっていただろう。
私が勝手に推しているだけなのだから、これからも触れられないで欲しい。なんて。
余りにも我儘な私には、矢張り彼らの隣なんて特等席は勿体なすぎる。
嗚呼、はやく離れなきゃ。
自嘲の笑みを面の裏に隠し、彼にお茶菓子を出そうと背を向ければいきなり くん、と上半身が命令に逆らった。
何事かと後ろを振り返れば気でも悪くしたのか俯く彼が、私の左袖を皺が出来るくらい力強く掴んでいる。
これは彼の"不安なことがあった、若しくはたった今起きた時"に行われる行為であると、私は知っていた。
『、どしたん？何かヤな事あった？』
「……」
応えは返ってこなかったが、返事の代わりと言わんばかりに袖を握る力が強くなった。くしゃりと皺が刻まれる。
彼の反応からして、無理に聞き出すのは余り宜しくないのだろう。こういう時は何も聞かず、自分から話題転換をすれば良いのだ。
『ね、この間言ってたゲームしよ』
「……おん」
結局、何があったのかとか、何に不安がっていたのかとかは一切聞かなかった。聞いてもはぐらかされるだけだろうし、もし聞いて彼の気分を害してしまったら私は死ぬ(迫真)。
この日感じ取ったなんてことない異変を"平和な世界だから"といって放置してしまったことを、私は後日後悔した。
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怜巫(プロフ) - まるさん» コメントありがとうございます。イマジナリーッペンは自分でもお気に入りの造語です(笑)。ご期待に添えられるようなお話かは分かりませんが、気長にお待ち頂ければ幸いです… (11月20日 15時) (
レス) id: 42dc5a7528 (このIDを非表示/違反報告)
まる(プロフ) - 今では珍しいパンゾンビ、P.6で出てきて懐かしすぎて久々に見に行ってしまいましたwイマジナリーッペンの語呂の良さ、微笑んでしまうようなやり取りetc…明日が一応更新日ということで、気長に楽しみに待っています！！ (11月18日 20時) (レス) @page33 id: dba6e6f19e (このIDを非表示/違反報告)
怜巫(プロフ) - ワカメさん» お褒めいただきありがとうございます！遅筆ですが頑張って続きを作成中ですのでこれからも本作品を何卒宜しくお願いします！ (10月3日 20時) (レス) id: 138669c149 (このIDを非表示/違反報告)
ワカメ - ものすごく面白いです！続き楽しみにしてます！ (10月3日 18時) (レス) @page22 id: 103dc78d5a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：怜巫 | 作成日時：2023年8月17日 5時
