卒業3 ページ35
冷たい汗が額を伝う。
それは時間停止という規模の大きな魔法を維持しているせいで激しくカロリーを消費して疲労してきているからでもあり、空腹感が高まっているにもかかわらず魔法が解けないことへの焦りの表れでもある。
以前イデアにイタズラをしたときは、空腹になると意識せずとも自動で魔法が解けたのに。
じわじわと細胞を焼かれるような頭痛。
これはもしやと懐にしまっていたマジカルペンを取り出すと、案の定魔法石が真っ黒になっている。
オーバーブロットだ。
二本足で立つのもつらくなり、思わず目の前のイデアに倒れかかってしまった。 長い時間体重をかけていたら、時間が戻った時に一瞬で衝撃が加わって大怪我をする可能性がある。 よって早く離れるべきなのだが、身体を起こすことができない。
アズールもこれを味わったのかと、突然思い至った。
走馬灯というのは本当にあるようで、あの時の記憶のフラッシュバックを皮切りにたくさんの記憶が波のように押し寄せてきた。
過去の記憶から打開策を見つけようとする生存本能だろうか……と、無駄な考え事をするのは死の恐怖から目を背ける本能だろうか。 死を目の前に自分の頭がこれほど荒ぶるとは思わなかった。
しかし結局、
(時間をとめたままオーバーブロットしたら、どうなってしまうんでしょう)
生存本能より好奇心の方が勝った。
ジェイド･リーチという生き物はどう足掻いてもそういう性分なのだ。 死を逃れる方法を考えるより、この状況がどんな騒乱に繋がるかを想像するほうを選ぶ。 悪魔のような理性。
それからもうひとつ。
卒業なんてしなければいいのに
ずっとこの面白い人を観察できればいいのに
もっとこの面白い人と話せたらいいのに
僕が満足するまで一緒にいられたら
このまま時が止まってくれれば
いなくなるなら時間を止めてしまえば
無意識領域に芽生えていた密かな願望が本人の意思すら蝕んだ。 時を戻そうとする意思を無意識が拒むのだ。 それは理性でも本能でもない。 言い表すならば恋。
どうせ死ぬならめいいっぱい楽しみを追い求めてやろうと理性で頭がいっぱいになり、思わずイデアに口付けた。 時間が戻った時のダメージなど考えず思いっきり口付けた。
けれどジェイドはこの後目を回しながら腰を抜かすイデアを見られない。 気絶した兄を抱き起こすオルトの心配そうな顔も見られない。
死とは、その先の未来に起こる事を知ることができなくなること。 永遠の停止。やがてこの思考も止まる。
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かおり(プロフ) - 雪華さん» コメントありがとうございます。 すみません、ほとんどわからないです･･･！ (2020年10月13日 19時) (
レス) id: 8721d08b30 (このIDを非表示/違反報告)
雪華 - 鋼の錬金術師は知ってます？ (2020年10月13日 15時) (レス) id: 1286db9797 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：かおり | 作成日時：2020年9月20日 2時
