卒業2 ページ34
｢兄さん、そろそろ行こう！｣
少し遠くからオルトが手を振っている。
イデアはそれに手を振り返してからゆっくり立ち上がり、少し悩むようにうろうろと足踏みをした。
ジェイドになにか言いたいらしい。
｢……何企んでるのか知らないけど、まあ残念ながらこれでお別れだから｣
｢企むだなんて。 僕はただ、あなたと仲良くしたかっただけですよ｣
｢どうだか｣
顔を見上げるのに疲れてジェイドも腰を上げた。
｢じゃあ……アズール氏によろしく｣
オルトが待つ方へ振り向くと、ジェイドからは、青い火は黒いローブに隠れて見えなくなる。
｢さようなら｣
無意識に
パチン と
指を鳴らしていた。
｢……いけませんね。 便利なものは1度使ってしまうと、それに頼ることに抵抗が無くなっていく｣
反省の言葉を口にしながらも、魔法を解く気は無い。
時間の止まった静寂の世界でただひとり、術者であるジェイドのみが息を吸い、移動し、イデアの進路を塞ぐことが出来る。
正面から顔を見て初めて少し伏し目がちになったところで止めてしまったことに気づいたが、些細なことだ。
特徴的な青い唇に指を這わせ、スっとなぞる。
齧り付く場所に狙いを定めるように。
だって僕とこの人は寮も部活も趣味も何もかも違っていた。 他の先輩後輩より共に過ごした時間が短いのだから、少しくらい時間を増やしても構わないじゃないか。
なんて、誰に聞かせるわけでもないのに心の中で言い訳を捏ねながら
これが終わったら二度とこの魔法は使わない、本は図書室に返して二度と持ち出さない
と、海の魔女に誓を立てる。
時間を止めている間に与えられた刺激は、動き出した時に一気に加わるということを気にして
うっかり転んで突き飛ばしたりしないようにと
慎重に、そっと顔を近づけて
触れるだけのキスをした。
こんな微かな刺激では、時が戻っても気づかないかもしれない。 誰の記憶にも残らない行為。 それで満足だった。 自分だけが覚えていればいい。
あとは時を戻して、突然眼前に瞬間移動してきたジェイドに驚いて腰を抜かすマヌケな様を正面から見られれば上々だ。
胸を高鳴らせながら、もう一度指を鳴らした。
｢……え？｣
パチン、パチン、何度も指を鳴らす。
時が戻らない。
手順は間違えていないはずなのに。
目眩がするほど人間だらけの景色に対し、
聞こえてくるのは自分の鳴らす指の音だけ。
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かおり(プロフ) - 雪華さん» コメントありがとうございます。 すみません、ほとんどわからないです･･･！ (2020年10月13日 19時) (
レス) id: 8721d08b30 (このIDを非表示/違反報告)
雪華 - 鋼の錬金術師は知ってます？ (2020年10月13日 15時) (レス) id: 1286db9797 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：かおり | 作成日時：2020年9月20日 2時
