葬送 ページ30
「黙れ偽物。」
「…………A………？」
ミミクリーが驚愕したように目を見開く。
「猿真似以下の大根芝居しか出来ないのならあの人を語るな。ここまであっさりボロを出してくれるとは思わなかったけど………『ユキヒナ』だって言うんならもっとしっかり騙してよ。」
許せない。兄を騙ったこのミミクリーも、偽物だと思いつつも淡い期待をした自分も、このミミクリーがこの後にしようとしていただろう事も、全部全部許せない。
「俺、ユキヒナ、だよ？ 九瓏ユキヒナ……。」
立ち上がったミミクリーが、焦ったようにそう言う。
「私の事を騙せて喰らえていたなら、次は他の皆さんを喰うつもりだったんでしょ？入出さんを、駆堂さんを、更屋敷さんを、伊奈葉さんを、鬼ヶ崎さんを、忍霧さんを、路々森さんを、逢河さんを。」
「………。」
「私が喰われるのは別に良いんですよ。帰る場所なんて無いしどうせ独りぼっちだから。でも、他の皆さんが喰い殺されるのは……嫌なんです。ましてやそれをするのが兄の姿を模倣した化け物だなんて、冗談じゃない。あの人は優しいから、きっと心を痛める。」
元々兄は優しい気質だ。ミミクリーが皆を喰い殺したら、自分の罪じゃなくても苦しみ続けるだろう。端から見れば『九瓏ユキヒナが妹の仲間達を惨殺した』事になるのだから。
ポケットからアンプルを取り出して振りかぶる。
……偽物だとわかっていても、見た目は完全に兄のそれだ。………少しだけ、躊躇うものがある。
そのとき、ミミクリーがぽつりと呟いた。
「……家族思いで仲間思い。自分の事は2の次で、離別を恐れる癖に孤独は嫌で、愛情深い。あいつと、本物と同じだ。」
「…………。」
私とよく似た顔立ちの、その額にアンプルを突き刺した。
みるみるうちに黒ずんで、ミミクリーが枯死していく。
「………気分、悪いな。」
まるで人殺しの気分だ。いくら偽物だと言っても外見は完全に兄なのだから仕方ないだろうけれど。
「……あれ、」
不意に視界が滲む。
ぽろりと1つ頬を伝った雫は、堰を切ったように次から次へと溢れ出した。
「……どうして。」
胸が痛い。
中途半端に兄の姿をしたものに出会ってしまったからなのだろうか。
深夜の廊下で泣き崩れる私は端から見ればさぞかし滑稽で不気味だろう。でも、それでも止まらなかった。
「………こんなに泣いてちゃ、戻れないですねぇ。」
どこかで時間を潰さなければ。
こんな顔を見られたら、『何をしていた？』って話になるだろうし。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 209人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ユキヨル(プロフ) - 新埜さん» ご指摘ありがとうございます！！非公開になってるのに気がつきませんでした……公開にしておきます！！ (2019年8月26日 18時) (
レス) id: b49c625d58 (このIDを非表示/違反報告)
新埜(プロフ) - ユキヨルさんのお話、文才が凄くて面白いです！！あとすいません、おそらくですが、鮮血湯煙事件のとこ、1話目が非公開になっていると思いますよ!! (2019年8月26日 17時) (レス) id: a85fd0d46b (このIDを非表示/違反報告)
ユキヨル(プロフ) - 林檎さん» ありがとうございます(*´ω｀*)体調気を付けますね！ (2019年8月24日 18時) (レス) id: b49c625d58 (このIDを非表示/違反報告)
林檎(プロフ) - 更新頑張りながら体調にも気をつけてきださいね！ (2019年8月20日 10時) (レス) id: eadb533606 (このIDを非表示/違反報告)
ユキヨル(プロフ) - Sayakaさん» なるべく毎日更新出切るように頑張りますo(･ω･o) (2019年8月20日 10時) (レス) id: b49c625d58 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ユキヨル | 作成日時：2019年8月19日 14時
