虹空556 ページ9
［Noside］
「……随分としおらしいじゃねぇの。あのウザったい口調やらセリフはどうした？」
ハジメの言う通り、今のミレディは、迷宮内のウザイ文を用意したり、あの人の神経を逆なでする口調とは無縁の誠実さや真面目さを感じさせた。
「あはは、ごめんね〜。でもさ…あのクソ野郎共って……ホントに嫌なヤツらでさ……嫌らしいことばっかりしてくるんだよね……だから、少しでも……慣れておいて欲しくてね……」
「おい、こら。狂った神のことなんざ興味ないって言っただろうが」
「そうだよ。なに、勝手に戦うこと前提で話してるのよ」
ハジメと香織の不機嫌そうな声に、ミレディは意外なほど真剣さと確信を宿した言葉で返した。
「……戦うよ。君たちが君たちである限り……必ず……君たちは、神殺しを為す」
「……意味がわかんねぇよ。そりゃあ、俺たちの道を阻むなら殺るかもしれないが……」
「……うん。私もそのつもりだけど……」
若干、困惑するハジメと香織。そんな2人を宥めるようにカエデは言った。
「別にいいだろ。クソ神に対する対策ができたと思えば。決して、損にはならねぇよ」
「……まぁ、そうだな」
「……うん、そうだね」
カエデの言葉にハジメも香織も何か心当たりがあるのか、素直に応じた。ミレディは、その様子に意外そうに声を漏らした。
「へぇ……思ったより素直だね……。しかも……目付き悪い君はクソ野郎と戦うことを想定している……？……でも、……それでいい……君たちは君たちの思った通りに生きればいい……君たちの選択が……きっと…………この世界にとっての……最良だから……」
いつしか、ミレディ・ゴーレムの体は燐光のような青白い光に包まれていた。その光が蛍火の如く、淡い小さな光となって天へと登っていく。とても、とても神秘的な光景である。
その時、おもむろにユエがミレディ・ゴーレムの傍へと寄って行った。既に、ほとんど光を失っている眼をジッと見つめる。
「何かな？」
囁くようなミレディの声。それに同じく、囁くようにユエが一言、消えゆく偉大な“解放者”に言葉を贈った。
「……お疲れ様。よく頑張りました」
「……」
それは労いの言葉。たった1人、深い闇の底で希望を待ち続けた偉大な存在への、今を生きる者からのささやかな贈り物。
「…(彼女の性格から凄く嫌な予感しますね…)」
ヨミだけこっそりため息をつく。
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