球児達の恋模様【短編集】 (ページ1)

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倉持洋一＊野球部のあの子ページ1

＊

　少し緑がかった髪が窓からふき込む風に揺れる。差し込む光に少し透けた緑が私にとっては目がくらむように眩しい。

　＿＿彼は、野球の名門、青道高校の野球部副主将である。
　倉持君…彼とは去年から同じクラスだが、まともに話したことはない。

　なんだか遠い存在のようで…スタンドから、テレビの前から見るその人はなんだかキラキラしていて。彼が同じ教室にいるという事実が、どこかふわふわと現実味の無いようなものに感じる。

　彼…というか彼らは、実際、クラスメイトと必要以上に仲良くするような感じが無い。同じく野球部の、しかも主将である御幸君といつもあの窓際で一緒にいるのである。

　_____私はそんな彼に、漠然とした憧れを抱いていた。

　いつもの気だるげそうな表情も、御幸君と戯れるときのいたずらっぽい表情も、……野球をしているその姿も、私にとってはキラキラして見えた。そんな彼を、気づけば目で追っていたのだ。

＊＊＊

　___ガタン、と音を立てた少し建て付けの悪い音に振り返れば、しんと静かな美術準備室にピンとした空気が流れる。

(…倉持君だ)

　ひとり、美術の授業の途中でものを取りにきたところに、どうやら彼も同様の理由でここに来たらしい。…が、振り返ってばっちりと目が合ってしまい、冷や汗が流れてくるのがわかる。

　…無論、私は彼とまともに話したことがない。お互いに、もしくはどちらかに友達がついていればここまで気にすることはなかっただろうに。
　話したことがない上にお互いにひとり、そしてしっかりと視線が交わってしまっている。…しかも2人きりである。

　____憧れの人を目の前にすれば、皆こうなるであろう。仕方ない。…とはいえ、相手は傍から見ればただの同級生である。なにも話さないというのもどこか不自然だろうか。

　よし、勇気を出して話しかけてみよう……と、現実はそう簡単にはいかないわけで。

　(…無理無理。絶対無理。話題も特に思い浮かばないし。相手も別に会話が無いことをそんなに気にしていないかもしれないし。)

　本当は憧れの人と話してみたい本音を必死に隠す言い訳ばかり心の中で唱えていた。…さっさと必要なものを取って立ち去ろう、と少し古びた棚を漁っていると。

「…あ、」

(やば、)

　やはり建て付けの悪い棚の上段から落ちてくるものが視界に入ってくる。私は咄嗟に目をぎゅと瞑り、屈んで頭を抱えていた。